ホーム > グルメ > 『SIGNATURE 今月の一皿』 No.69 懐深き料亭の味

ダイナースクラブ会員様にお送りしている会員誌「SIGNATURE」より、選りすぐりの一品をご紹介します

WEB限定 今月のもう一皿

「料亭なんて縁遠くて……」と思われる人も多いだろう。
でも一度でいいから、足を向けてみてほしい。忘れ去られた日本の古き良き晴れの世界が、そこにある。

浅草。青山や渋谷とは違い、江戸の変わらぬ風情を残した粋な大人たちがよく似合う街である。雷5656会館という一風変わった名前の地元では有名なビルの近く、柳通りにある『料亭婦志多』に伺った。この『婦志多』、実は「開運の名席」と言われている。その由来は、この地に明治29年に建てられた「宮戸座」という劇場に遡る。「宮戸座」は隅田川の別称・宮戸川にちなんだもので、出世芝居が得意といわれていた。今でもその名残で縁起がいい場所として言い伝えられているのである。そんな歴史を玄関先の石碑で感じながら立派な玄関をくぐる。料亭と聞いただけで否でも応でも敷居の高さを感じるが、『婦志多』は時代の流れと共に新しい息吹も受け入れようとしている。若女将の中村貴子さんも「若い方や女性同士も大歓迎」と優しい笑顔で話してくれた。手入れが行き届いた庭が見える「若竹の間」はお食事だけでも、そしてもちろん芸妓さんを呼んで踊りや音曲を楽しむのにも素晴らしい空間だ。

四季折々の厳選食材を生かした献立から、今月の一皿には「先附」を選ぶ。旬の早蚕豆の彩りを楽しみながらクリームチーズに鯛腸をあわせていただく。日本酒とチーズの相性を酒盗が引き立ててくれる。癖になる味だ。食事、会話、そして踊りや音曲を楽しむ中で邪魔をしない食事は意外と難しいが、『婦志多』のそれは季節感を取り入れ、さり気ない職人の技が飽きを感じさせない。お椀やキリッとした刺身に続く「焼肴」は甘鯛の若峡焼。季節感あふれる桜葉の香りと共にプリッとした甘鯛に舌鼓みを打つ。奇をてらわないところに好感が持てる料理だと思う。若い世代は日本文化の伝統を守るために、ベテランは更なる発展のために、もっともっと料亭に行こう!

写真・岡村昌宏 文・下谷友康

婦志多Fujita

お昼の会席弁当は1名5,250円~。女性同士のランチや同窓会、家族の誕生会などの慶事に利用すれば、いつもと違う趣向で楽しめそうだ。夜は、1名15,750円~。芸妓や生演奏などの手配にも気軽に応じてくれる。予約は3日前までに。

※この記事に掲載の金額は取材当時の消費税率込の料金です。
※サービス料・席料別です。

住所 東京都台東区浅草3-22-5
電話 03-3874-4151
営業時間 11:30~14:00、18:00~23:00
定休日 日曜・祝日(4名様以上ならば予約可)
備考 要予約

WEB限定 今月のもう一皿
春のお献立より

「純和風のしつらえ」というものにすっかり疎くなった現代人にとって、料亭ほど懐かしい清々しさに出合える場所はないだろう。
掃き清められた玄関、広々とした畳の間、大きな壁には立派な書。すべてが泰然として麗しい。
部屋に入っても然り。床の間にかけられた軸や活けられた花は、さりげなく季節を感じさせる。また、テーブルや座椅子も大振りでゆったり。「エコノミックアニマル」「うなぎの寝床」といったものとは対極の、古き良き日本人の美意識に包まれた空間。知らず知らずのうちに、ほどよいリラックス感に包まれる。そう、料亭は高級ゆえの緊張ではなく、癒しを感じる空間なのだ。
一品一品の料理にも、そんな和の心が込められている。『婦志多』の春のお献立の中から「今月のもう一皿」として選んだ煮物。おしながきには、こう書かれてあった。

新馬鈴薯、蛸 桜煮、鯛子 花煮、独活、菜の花、木の芽

旬の素材や奥ゆかしい料理名に心地よさを感じたら、やっぱりあなたも生粋の日本人、ということだろう。
※この記事に掲載の金額は取材当時の消費税率込の料金です。

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