ホーム > グルメ > 『SIGNATURE 今月の一皿』 No.70 風薫る古都の蕎麦

ダイナースクラブ会員様にお送りしている会員誌「SIGNATURE」より、選りすぐりの一品をご紹介します

WEB限定 今月のもう一皿

原宿界隈のビルの上階。階下には若者の街の喧騒。目線を上げると窓の外には緑まぶしい欅並木。冷酒をかたむけながら肴をつまみ、手打ちそばをたぐる。

空が高く空気が澄んだ日は本当に気持ちがいい。初夏になるときまって湘南にドライブする。数年前、車を駐車場に停めて鎌倉を散策中に、由比ガ浜にいい店を見つけた。住宅街を散歩していると惣然とあらわれる、古民家を改装した雰囲気のある佇まいの蕎麦屋『鎌倉松原庵』だ。落ち着いた静かな空間は古都鎌倉ならではで、これからの季節は緑あふれるテラス席が特等席になる。そんな鎌倉の趣を残しながら、喧噪から離れてゆっくりと時が過ぎる姉妹店が、都会の真ん中に昨年オープンした。

その『松原庵欅』はビルの4階にある。だからこそ、窓の外に表参道の欅並木が目線に直接飛び込んでくる。これからは梅雨を迎えるから、さらに緑のコントラストは綺麗に光り出すはずだ。ここには鎌倉の潮風も庭の木々もないけれど、窓の外の鮮やかな欅や、夜になると原宿の煌びやかな夜景がさらに魅力を増す。

今月の一皿を飾るのは「彩り野菜のバーニャカウダ」。三浦や鎌倉から直送される旬の野菜は、豊かな土壌と温暖な気候で育てられ、とても甘く香り高い。コクのある特製アンチョビソースも素晴らしいが、何もつけずに野菜そのものの甘さも楽しんでほしいと思う。定番の「だし巻き玉子」や「そばがき」だけでなく、季節のおすすめで「筍の炭火焼き」「桜海老のかき揚げ」など充実の料理は見逃せない。毎日店内で打たれる蕎麦は二八の細切りで喉越しがいい。僕のお気に入りは「蛤蕎麦」。大きな蛤と出汁のよく効いた濃い目の汁が細切りの蕎麦によく絡み、相性抜群である。そして蕎麦には欠かせない大事な日本酒は出身地の神奈川県を重視。料理長・磯野さんのおすすめの「相模灘」は爽やかな吟醸香と文句のない豊かさだ。自然と杯が進んだことは言うまでもないだろう。

写真・滝岡健太郎 文・下谷友康

鎌倉 松原庵 欅Kamakura Matsubara-an Keyaki

和風から洋風まで、バリエーション豊かなメニューは蕎麦屋とは思えないほどだ。お年寄りからお子様まで家族全員で満足できる良店といえる。店の奥には個室もある。彩り野菜のバーニャカウダ1,400円、蛤蕎麦1,700円。料理長おすすめの日本酒、相模灘 純米吟醸は 2合2,320円。

※この記事に掲載の金額は取材当時の消費税率込の料金です。

住所 東京都渋谷区神宮前1-13-14 原宿クエスト4F
電話 03-3478-7444
営業時間 11:30~23:30(22:30L.O.)
定休日 なし

WEB限定 今月のもう一皿
そば刺し

黄昏時。板わさなんかを軽くつまみながらお酒をちびちび――。酒呑みにはたまらないシチュエーションである。私見であるが、こんな時のつまみはごくシンプルでなければならない気がしている。夜はまだこれから、という意識が働くためだろうか……。
そんな黄昏時にぴったりのつまみをメニューの中に見つけた。それは「そば刺し」(650円)。恥ずかしながら、「そば刺し」という料理があるということをこの店で初めて知った。いかにもさっぱりしたその名に惹かれて、早速注文してみる。
テーブルに運ばれてきたその姿は、写真でご覧いただくように、白身のお造りのように薄く、でもそばよりも幅広に切られたものだった。わさびと塩が添えられている。なるほど、まるで魚の刺身を食べるかのようだ。
まずは塩をつけて。そばの豊かな風味にキリリとした塩の味が加わる。次はわさび醤油で。もちろん、そば、醤油、わさびのハーモニーが期待を裏切ることはない。どちらも美味しくいただけるが、それにアクセントを添えるのはそばの実だ。軽く揚げてあり、風味は倍増している。黄昏時のそば屋のつまみ、新定番。「お銚子をあと一本」、と思わず手を上げてしまった。
※この記事に掲載の金額は取材当時の消費税率込の料金です。

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