ホーム > グルメ > 『SIGNATURE 今月の一皿』 No.83 伝統とモダンの融合

ダイナースクラブ会員様にお送りしている会員誌「SIGNATURE」より、選りすぐりの一品をご紹介します

WEB限定 今月のもう一皿

京都中京区衣棚通。街中の喧噪を少し離れたこの通りは、豊臣秀吉によって新設されたという。室町通と同じく、江戸時代には呉服の大店が軒を連ね大層にぎわった。

近頃は、祗園や先斗町を尻目に美食家たちのニューカマーとしてマークされている通りのよう。その先駆けとなったのが『ラ・ビオグラフィ』だ。『ブライトンホテル』のフレンチ料理長を長年務めた滝本将博さんが満を持して居を構えた。20席とこぢんまりしているが、モダンなセンスが隅々まで行き届く。自然を共有したいと、一軒家を改装した店内から望む中庭には四季折々の小さな生物が息づくビオトープも。すべてが洗練された大人のためのレストランだ。

「先人のシェフたちによって何百年と伝えられてきた料理や精神を、次世代に伝えていけたらいいですね」。そう言ってテーブルの上に供されたのは、コンフィとフリカデル風にしたドンプ産の鶉をマレンゴ風ジュに仕立てた一皿だ。ナポレオンがイタリア・マレンゴで戦った際、料理人・デュマが作った即席料理が滝本シェフの磨かれたセンスによって美しく表現され、皿の上に物語として静かに綴られていく。「料理の一つ一つが、食卓を豊かに彩る会話のきっかけになるように。料理だけでなく、空間・時間を楽しむ場をつくりたかった」とも。

滝本さんの料理を食すると、伝統や文化の継承には、モダンさや色気が欠かせないと気づくはずだ。料理と文化の関係を深く考察するガストロノミー。京都でそれを語るとき、今まではおそらく京料理が優勢だったに違いない。

『ラ・ビオグラフィ』の出現は、その流れとは違う新しさを感じさせる。「日本料理から学ぶことは多いですよ。昆布で出汁を取ったり。京都ならではといえるかもしれませんね」と滝本さん。この店が多くの美食家の心をとらえるのは、そんな滝本さんが持つ現代的なバランス感覚。 今後、彼の料理は、京都に地にあってどのように進化していくのか。楽しみだ。

写真・伊藤 信 文・内貴美喜

ラ・ビオグラフィLa Biographie…

2011年オープン。限りなく自然でていねいに生育された食材を使用した料理は、その素材の味を最大限に引き出すための加熱と塩のタイミングがポイント。ショコラのデセールはシリンダー状に仕立てた個性ある一品だ。ランチ6,825円~、ディナー15,750円~(税込・サ別10%)。全席禁煙
※この記事に掲載の金額は取材当時の消費税率込の料金です。

住所 京都市中京区衣棚通御池下ル西側長浜町152
電話 075 -231-1669
営業時間 ランチ12:00~13:00(最終入店)、15:30(閉店)、ディナー18:00~20:00(最終入店)
定休日 月・火曜日

WEB限定 今月のもう一皿
夏の地場野菜フォンダン タブナートの香り
トマトのプレート 熟成生ハム バジルオイル
〈モナコの思い出……〉

滝本将博シェフがフランス修業時代「モナコの本当に何でもない普通のビストロで食べた」というラタトゥイユ。さりげなく出されたその家庭料理は、芳醇なトマトと野菜の旨味が最大限に引き出されていた味わい深い一品だったそう。「以来、その味が忘れられず、このレストランの夏のスペシャリテとしてコースの中の定番メニューにしています」。

露地栽培の夏の地場野菜をフォンダン仕立てにして、トマトのプレートと熟成生ハムの組み合わせに、バジルオイルの爽やかなアクセント。野菜の旨味が凝縮した一皿だ。メニューのサブタイトルには〈モナコの思い出〉と付けてある。プレートが出された時、滝本シェフから旅の思い出話が披露されるはずだ。モナコに行ったことがある人も、無い人も、一枚の皿のストーリーを共有することで、モナコを旅したような華やかな気分になれるはず。『ラ・ビオグラフィ』では、料理はもちろん、料理の裏側にあるそんな空気感もぜひ感じ取ってほしい。料理とともに運ばれるストーリー、その空間と時間を楽しめる色気のあるレストラン――それが滝本シェフの目指す姿なのだから。
※この記事に掲載の金額は取材当時の消費税率込の料金です。

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