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<山本益博の料理エッセイ>この店、私のお気に入り 山本益博

第十一回 「新ばし笹田」

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四季を感じに新橋へ赴く。

いま、四季に一度は必ず訪れている東京の日本料理店の1軒が「新ばし笹田」である。現在の店に移転する前は、もう少し新橋の繁華街に近く、「すし屋」のあとを「居抜き」で受け継ぎ、狭くて細長い店だった。カウンター席のみで、その席のすぐ後ろはガラスの引き扉という、日本料理をじっくり味わうには相当ハンデがある店だった。そこをじっと何年も辛抱しての「笹田」の移転である。

前の店に比べると、新店は何と清潔感に溢れて、無駄な装飾のない内装だろうか。カウンター席が8席にテーブルに椅子の個室が2つ、カウンター席の前の板場、調理場のスペースの十分なこと。これなら、納得のゆく仕事ができるだろうし、料理された食材も喜んでいるに違いない。

茶道のようにいただく"お椀"。

今年出逢っていまだ忘れられないのが、2月にいただいたお椀の「出汁」である。厳選した水をベースに最上等の昆布とこれまた最上質の鰹節を使って、まことに見事な調和のとれた静謐で「まあるい」味わいの出汁。

お椀の蓋を取り、箸を持たずに、両の掌でお椀を包み込むようにして持つ。お茶をいただくときと同じ要領である。椀だねを動かさないように、つまり出汁をクリアな状態にしたまま、ひと口そおっと吸い地をいただく。このひと口目は、その前の料理の味を洗い流すためである。続けて、ふた口目。今度は舌の上、口の中を平にするための吸い地。こうして、ようやくお椀の「出汁」を味わう準備が整ったことになる。同席のものとのおしゃべりもやめて、私は深呼吸をひとつして心を鎮め、お椀への集中力を高めるのだ。そして、ゆっくりと「出汁」の美味しさを探しにゆく。

ここまで書くと「なんと大袈裟な」という方がきっといるに違いない。しかし、そうとでもしなければ、日本最高峰の「お椀」を存分に味わい尽くすことはできないのである。フランス料理の場合、バターやクリームといった油脂を料理に使うから、皿のほうから「美味しさ」が立ち上ってくる。しかし、日本料理は油脂がほとんど使われず、お造りでも野菜の炊き合わせでも、すべてが水に包まれた料理だから、「美味しさ」は幽かで精妙である。

日本の風土と歴史が育んだ"旨み"。

いま、欧米で「UMAMI」が注目されているが、「甘み」「辛味」「苦味」などと違って「旨味」は簡単に理解されるものではないと思う。お椀の「出汁」にこそ「旨味」の原点があると思うのだが、欧米人の食生活、食文化の伝統からは遥か遠いところにあるのではないか。つまり、日本料理の旨味は、日本人の特権ではなかろうか、とさえ考えるのである。その「旨味」が「笹田」のお椀の「まあるい」味わいに潜んでいると確信しているのだ。

2月の「お椀」を大絶賛すると、笹田さんは「たまたま上手くゆきました」と謙遜したが、その技術と感覚を持っていることには違いない。4月に出かけたときも、油目の椀だねで素晴らしいお椀を作ってくださり、前回の「出汁」がフロックでないことを証明してくれた。このお椀の「奇跡」に出逢いたいがための「笹田」通いなのである。

写真・文 山本益博

プロフィール

山本益博

1948年(昭和23年)東京・浅草生まれ。料理評論家。
1973年よりフランスへ出かけて料理とレストラン文化を研究、2014年、フランス政府より農事功労章オフィシエを授与される。米国グラムメディア社『Foodie Top 100 Restaurants: Worldwide』の選者の一人。
「人間味という味が、いちばん美味しい」(大和書房)など食に関する著作のほか、「立川談志を聴け」(プレジデント社)、「名人芸の黄金時代 桂文楽の世界」(中公文庫)などオペラや落語、イチローに関する著作も多い。Webサライで「ひと皿の歳時記」ほか、最新の料理情報などを掲載。「美食の世界地図」(竹書房新書)を2014年1月に上梓。2014年9月に小学館より『鮨 すきやばし次郎 JIRO GASTRONOMY』を出版。

ダイナースクラブカード会員限定特典

  • ●ダイナースクラブカード会員様とご同伴の方全員に、シェフからの一品をサービスします。

優待期間 : 2013年6月19日~2013年7月18日ご利用まで

  • ※ご予約時に、ダイナースクラブカード会員である旨をお伝えください。
  • ※ご予約は、直接お店にご連絡ください。
  • ※ご予約なしでご来店の場合は、ダイナースクラブカードをご提示ください。

新ばし 笹田

〒105-0003
東京都港区西新橋1-23-7 プレシャスコート虎ノ門1階
03-3507-5501

営業時間
ディナー 18:00~21:00 L.O.
お食事はコースのみご用意しております。
(12,000円、15,000円、18,000円)
定休日 日・祝休み
  • ※別途サービス料10%をいただきます。
  • ※ドレスコードはありません。
  • ※中学生以上のお客様よりご利用いただけます。
  • ※イベント等、貸切の際は特典対象外となります。あらかじめご了承ください。
  • ※お支払いにはダイナースクラブカードをご利用ください。

バックナンバー

  • 第一回 六本木「イマカツ」
  • 第二回 XEX 愛宕 グリーンヒルズ/サルヴァトーレ クオモ ブロス
  • 第三回 福臨門酒家 銀座店
  • 第四回 神楽坂 東白庵かりべ
  • 第五回 六本木「Restaurant Ryuzu」
  • 第六回 神谷町「ダ オルモ」
  • 第七回 「NINJA AKASAKA」
  • 第八回 日比谷「レ セゾン」
  • 第九回 六本木「厲家菜(レイカサイ)」
  • 第十回 銀座「ESqUISSE(エスキス)」
  • 第十一回 「新ばし笹田」
  • 第十二回 西麻布「レフェルヴェソンス」
  • 第十三回 「青空」(はるたか)
  • 第十四回 みかわ 是山居(みかわぜざんきょ)
  • 第十五回 フレンチファインダイニング「シグネチャー」
  • 第十六回 アルヴェアーレ
  • 第十七回 すきやばし次郎
  • 第十八回 白金台「TIRPSE(ティルプス)」
  • 第十九回 銀座「流石Le蔵」
  • 第二十回 六本木「エディション・コウジ シモムラ」
  • 第二十一回 南青山「鮨ます田」
  • 第二十二回 広尾「はしづめ」
  • 第二十三回 五代目 野田岩 麻布飯倉本店
  • 第二十四回 銀座「馳走啐啄(そったく)」
  • 第二十五回 五反田「ヌキテパ」
  • 第二十六回 日本橋室町「LA BONNE TABLE」
  • 第二十七回 麻布十番「ケ・パッキア」
  • 第二十八回 東銀座「ムッチーニ」
  • 第二十九回 銀座「ル・ブール・ノワゼット トウキョウ」
  • 第三十回 築地「和光」
  • 第三十一回 銀座「Furuta」
  • 第三十二回 神楽坂「山さき」
  • 第三十三回 銀座「ときとう」
  • 第三十四回 六本木「BLT STEAK ROPPONGI」
  • 第三十五回 麻布台「SUGALABO」
  • 第三十六回 家全七福酒家 銀座店
  • 第三十七回 三田「コート・ドール」
  • 第三十八回 四ッ谷「後楽寿司 やす秀(みつ)」
  • 第三十九回 上野・御徒町「ぽん多本家」
  • 第四十回 西麻布「マルゴット・エ・バッチャーレ」
  • 第四十一回 銀座「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」
  • 第四十二回 根津「釜竹」
  • 最終回 丸の内・パレスホテル東京「クラウン」
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