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<山本益博の料理エッセイ>この店、私のお気に入り 山本益博

第十三回 「青空」(はるたか)

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すきやばし次郎で一から学び直す。

「青空」と書いて「はるたか」と読む。店名は本名の高橋青空(たかはし・はるたか)からとって命名した。北海道は旭川の出身、札幌のすし屋で修業を始め、東京へ出て、伝手を頼って銀座の「すきやばし次郎」へ入った。その「次郎」で修業を一からやり直し、13年かけて「次郎」の仕事を覚えて独立した。

「次郎」では10年ほど経つと、「たまご」を焼かせてもらえるようになり、一人前の「職人」として認められるようになるのだが、それでもお客の前ですしを握るまでには至らない。私は、高橋青空さんが「すきやばし次郎」へ入ったときから知ってはいるが、彼がつけ場に立ってお客にすしを握っている姿は見たことがない。だが、土曜の夜と日曜が休みの「次郎」で、土曜昼の営業のあと、残った魚を握っていたのは覚えている。

一流といわれる仕事の真骨頂。

「すきやばし次郎」の小野二郎さんの口癖は「すし屋はお勝手の仕込みの仕事が9割以上、お客の目の前に立って握るのは、盛り付けの場と考えたほうがいい。すしを握るなんてのは、そんなに難しいものじゃない」である。だが、「次郎」へ修業にやってくる若者は、一日でも早く客の前ですしを握りたくてしょうがない。だから、何年経っても、いわゆる「雑用」と呼ばれる仕事をさせられることに耐えられない。だいたい、3か月経ったころ、あきらめてやめていってしまう。「仕事を覚えるんじゃない、我慢を覚えなさいとよく言うんだけど、いまの若いのはそれができない」と、これも「次郎」さんの口癖。 それを考えると、青空さんは、すし屋の職人仕事を一からやり直して、よくぞ13年もかけて「次郎」の仕事をマスターしたものである。だから、独立の話を聞いたとき、客の前ですしを握る姿を見たことがなかったものの、何も心配はしなかった。

基本の上に際立つ自分らしさ。

ところがである。店は「花の銀座」に出すことになったものの、雑居ビルの3階だという。「銀座のすし屋」の繁盛店は、ほとんどが地上に暖簾を出している。いくら「すきやばし次郎」出身の職人が独立したからと言って、そんなに世の中甘いわけはない。 事実、開店当初はお客がまばらで、そのために無休で店を開け、深夜まで働いていた。朝早くから築地へ買い出しに出かけていたから、目を赤いままにして仕事を続けていた青空さんを心配したものである。ところが、そんな心配は無用だった。持前の不屈の職人精神で、質の高い仕事を全うし、半年後にはお客の評判を勝ち得ていったのだった。いまでは、簡単には予約の取れない店になっている。

長い間、料理の職人を見続けてきて、「誠実さ」「向上心」「清潔感」が不可欠で、これに「わがまま」と「情熱」が加わったものが職人の理想像だと思うのだが、青空さんはそのほとんどを持っている稀に見るすし職人と思う。「次郎」で覚えた仕事をベースにしながら、「青空」流を貫く。「次郎」では酒のつまみはほとんど出さないので、青空さんは料理屋をいろいろ食べ歩いては「すし屋」のつまみを工夫し、お客の要望に応えている。つまみとにぎりの塩梅もお客のお望み次第。

にぎりだけではなく、こはだやあなごなど「次郎」の仕事を受け継ぐものと、自分流に開発したものの二刀流である。「青空」の仕事を味わうにつけ、小野二郎の言葉を思い出す。

「教わったことをやっているだけでは、見習いとおんなじ」。
これからの高橋青空さんの仕事ぶりがますます楽しみである。

文 写真 山本益博

プロフィール

山本益博

1948年(昭和23年)東京・浅草生まれ。料理評論家。
1973年よりフランスへ出かけて料理とレストラン文化を研究、2014年、フランス政府より農事功労章オフィシエを授与される。米国グラムメディア社『Foodie Top 100 Restaurants: Worldwide』の選者の一人。
「人間味という味が、いちばん美味しい」(大和書房)など食に関する著作のほか、「立川談志を聴け」(プレジデント社)、「名人芸の黄金時代 桂文楽の世界」(中公文庫)などオペラや落語、イチローに関する著作も多い。Webサライで「ひと皿の歳時記」ほか、最新の料理情報などを掲載。「美食の世界地図」(竹書房新書)を2014年1月に上梓。2014年9月に小学館より『鮨 すきやばし次郎 JIRO GASTRONOMY』を出版。

ダイナースクラブ会員限定特典

  • ●ダイナースクラブ会員様と同伴のお客様(1名)にアペリティフをサービス。

優待期間 : 2013年8月21日~2013年9月19日ご利用分まで

  • ※ご予約時に、ダイナースクラブ会員である旨をお伝えください。
  • ※ご予約なしでご来店いただいた場合には、ダイナースクラブカードをご提示ください。
  • ※ご予約は、お店に直接ご連絡ください。

「青空」(はるたか)

〒104-0061
東京都中央区銀座8-5-8 銀座かわばたビル3階
03-3573-1144

営業時間
月~金 :17:00 - 24:00(22:00頃まで入店)
:17:00 – 22:30
定休日 日・祝日
  • ※お子様のご来店はご遠慮いただいております。
  • ※全席禁煙
  • ※イベント等、貸切の際は特典対象外となります。あらかじめご了承ください。
  • ※お支払いにはダイナースクラブカードをご利用ください。

バックナンバー

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  • 第二回 XEX 愛宕 グリーンヒルズ/サルヴァトーレ クオモ ブロス
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  • 第六回 神谷町「ダ オルモ」
  • 第七回 「NINJA AKASAKA」
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  • 第九回 六本木「厲家菜(レイカサイ)」
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  • 第四十二回 根津「釜竹」
  • 最終回 丸の内・パレスホテル東京「クラウン」
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