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<山本益博の料理エッセイ>この店、私のお気に入り 山本益博

第三回 福臨門酒家 銀座店

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何もしていないかのように"魅せる"。

「シンプルを極めるとピュアになる」料理として、すぐに脳裏に思い浮かぶのは、東京「すきやばし次郎」のすし、パリ「ランブロワジー」のフランス料理、そして、香港「福臨門」の中国料理の三つである。
この三軒は厳選された食材を徹底的に手間をかけるのだが華美にせず、あくまでシンプルに仕立てながら持ち味を最大限に抽き出すことだけを目指していて、その料理は、どれも味わいに曇りも濁りもない。それでいて、うま味の奥行きはどこまでも深い。

その香港の「福臨門」の海外支店第一号が、1989年にできた銀座店である。
「福臨門」名物の「フカヒレ入りスープ」も「脆皮鶏」も、ほとんど同じものがいただける。どうしても、香港でしか食べられないものといえば、デザートの「燕の巣入りスープ、ココナッツ風味」だろうか。これは、香港ではフレッシュのココナッツを使っているからで、これだけはどう逆立ちしても敵わない。その日に残った分は処分してしまうほど、鮮度にこだわっているデザートである。

"ピータン&シャンパン"の魔法。

今、店は以前の銀座6丁目から5丁目の並木通りに移ったが、内容は全く変わっていない。私はいつも「福臨門」へ来るときは、仲間を誘って4人以上でテーブルを囲むことにしている。二人でも一向に構わないのだが、料理の質は同じでも、食べたい料理の品数が限られてしまうのからである。中国料理は、人数プラスひと皿を、料理の目安とするのがいい。

銀座の「福臨門」では、まずシャンパンを注文する。乾いた喉を潤す食前酒の役割ばかりでなく、前菜のピータンに合わせるためである。ピータンのみでくらげもチャーシューなどの焼き物も頼まない。そればかりか、ピータンにはつきものの甘酢の生姜もいらない。熟成がほどよく進んだピータンとシャンパンの相性は最高である。発酵したもの同志の相性というか、ピータンがシャンパンに出逢うと化学反応を起こしたように、口の中で香り高く甘く溶けてゆく。

イメージ

私が今まで試みてきた中で、シャンパンの値打ちを最も高めてくれる食べものはピータンではなかろうか(ただし、ノン・ヴィンテージに限る)。はじめは半信半疑で合わせる仲間も、すぐに驚きの声を上げる。ぜひ、お試しいただきたいマリアージュである。

上:金鶏の姿揚げ  下:ガイランの炒め物

シンプルから生まれる極上。

この後に、ふかひれ抜きの上湯スープ。野菜か茸を添えてもらうだけで、じっくりと丁寧に時間をかけて仕上げられたスープを味わう。「シンプルを極めるとピュアになる」を実感する時である。

続いて「脆皮鶏」。北京ダックの鶏版と思えばいいだろうか。皮が命で口の中ではらりと崩れてゆく。これまたシンプルにして奥行きの深い味わいで、亡くなられた邱永漢さんは「世界一の鶏料理」と書いておられた。

それから、季節の青菜の炒め物。茹でて上湯スープを加えて炒めただけの野菜料理。これがたまらなく身体に馴染んでゆく美味しさである。予算が許せば、魚の蒸し煮もいただきたいが、私はこれをパスして、あわびの汁入り炒飯を注文する。乾燥あわびを戻した汁を炒飯に加えてリゾット状になった御飯料理。あわびの香りと鶏肉と蛸の味のアンサンブル。

最後に、マンゴープリン。「福臨門」が20年以上前に創作したデザートの傑作である。
こうしたコースをいただくと「福臨門」が最高品質ではあるが、贅沢で豪華絢爛な中国料理からは遠く離れた料理店であることがよく分かるに違いない。

写真・文 山本益博

プロフィール

山本益博

1948年(昭和23年)東京・浅草生まれ。料理評論家。
1973年よりフランスへ出かけて料理とレストラン文化を研究、2014年、フランス政府より農事功労章オフィシエを授与される。米国グラムメディア社『Foodie Top 100 Restaurants: Worldwide』の選者の一人。
「人間味という味が、いちばん美味しい」(大和書房)など食に関する著作のほか、「立川談志を聴け」(プレジデント社)、「名人芸の黄金時代 桂文楽の世界」(中公文庫)などオペラや落語、イチローに関する著作も多い。Webサライで「ひと皿の歳時記」ほか、最新の料理情報などを掲載。「美食の世界地図」(竹書房新書)を2014年1月に上梓。2014年9月に小学館より『鮨 すきやばし次郎 JIRO GASTRONOMY』を出版。

福臨門酒家 銀座店

〒104-0061
東京都中央区銀座5-4-6 ロイヤルクリスタル銀座7F
03-6215-6996

営業時間
平日 ランチ  : 11:30 ~16:00 (L.O.) 15:00
ディナー: 17:30~23:00 (L.O.) 21:30
土・日・祝 ランチ  : 11:30 ~16:00 (L.O.) 15:00
ディナー: 17:30~22:00 (L.O.) 21:00
定休日 月曜日

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