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<山本益博の料理エッセイ>この店、私のお気に入り 山本益博

第三十三回 銀座「ときとう」

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「串うち三年、焼き一生」と呼ばれる職人仕事

鰻職人の時任恵司さんは先月31歳になったばかりの若手だが、修業歴はすでに15年になる。
老舗の鰻屋へ入り、毎朝、誰よりも早く店に出て、一つでも多くの仕事をこなすことに専念し、頭で理解するよりも身体に仕事を染み込ませることを徹底した。

鰻の蒲焼は、まず鰻を裂いて、串を打ち、一度素焼きをしてから、蒸しをかけ、そうしてタレをつけて焼き上げる。
時間のかかる調理の上に忍耐のいる仕事で、昔から「串うち三年、焼き一生」と呼ばれる職人仕事である。

将来を予感させる包丁さばき

今どきの若者は、職人の世界に飛び込むと、すぐに「仕事」を覚えようとする。
だが職人の親方たちは、一様に「仕事」を覚えるより「我慢」を覚えなさいという。
この「我慢」に耐えられずに、いとも簡単に自分はこの仕事に向いていないとあきらめ、店を辞めてしまう若者がとても多い。

そんな現代の職人仕事の風潮の中にあって、時任君は極めて稀な存在と言ってよい。
もう何年も前、ある調理師学校でのデモンストレーションで、助手であった時任君が鰻を裂く仕事ぶりを披露した。
その時の手際の良さ、一瞬にして、鰻を成仏させてしまう包丁さばきの見事さは今でも目に焼き付いていて、この若者は将来、立派な鰻職人になるだろうことを予感させた。

銀座の街並みに溶け込む上質の鰻屋

それが、こんなにも早く実現するとは予想だにしなかった。

老舗の鰻屋を事情があって辞めたあと、彼に手を差し伸べたオーナーがいた。若いが情熱のある彼に存分に力量を発揮できる店を、なんと銀座に作った。
つまり「ときとう」は大衆大型の鰻屋ではなく、銀座の街並みに溶け込む上質の鰻屋を目指しているのである。

そのコンセプトは「高品質」の大衆化。
それは何より、昼の1日限定10食の「鰻重」を食べてみれば、すぐに理解できるだろう。
焼きむらのない、いや、焦げたところが全くない飴色に輝く蒲焼は、ただ脂がのってとろけるだけの蒲焼ではなく、皮目は香ばしく、身は緻密にして繊細、まさに鰻が川魚であることを見事に証明してくれる鰻重なのである。
これに、お吸いものとお新香がついて1800円は、銀座という場所柄を抜きにしても極めてお値打ちと言わざるを得ない。
夜のコースともなれば、蒲焼を酢の物仕立てにした「うざく」や蒲焼の玉子焼き「うまき」と言った伝統的な鰻料理ばかりでなく、フォアグラやトリュフを鰻に果敢に合わせてみたりしている。
中でも、「塩焼」はむかしながらの「白焼き」とは一線を画す、時任君オリジナルの鰻料理と言ってよい。
タレをつけず、しかも、「白焼き」より焼き込んであるために香りがよく、鰻の素の味わいを楽しむにはうってつけである。

若い職人には、なにより経験豊かな「味方」が必要である。
ぜひとも、一人でも多くの「味方」が増えることを願ってやまない。

文 写真 山本益博

プロフィール

山本益博

1948年(昭和23年)東京・浅草生まれ。料理評論家。
1973年よりフランスへ出かけて料理とレストラン文化を研究、2014年、フランス政府より農事功労章オフィシエを授与される。米国グラムメディア社『Foodie Top 100 Restaurants: Worldwide』の選者の一人。
「人間味という味が、いちばん美味しい」(大和書房)など食に関する著作のほか、「立川談志を聴け」(プレジデント社)、「名人芸の黄金時代 桂文楽の世界」(中公文庫)などオペラや落語、イチローに関する著作も多い。Webサライで「ひと皿の歳時記」ほか、最新の料理情報などを掲載。「美食の世界地図」(竹書房新書)を2014年1月に上梓。2014年9月に小学館より『鮨 すきやばし次郎 JIRO GASTRONOMY』を出版。

銀座 ときとう

〒104-0061
東京都中央区銀座7-5-5 長谷第一ビル 1階

03-6274-6093

営業時間 昼:11:30~14:30(L.O.13:30)
夜:17:30~22:00(L.O.21:00)
定休日 日曜日、4月29日(水)、5月6日(水)
  • ※ご予約は、お店に直接ご連絡ください。
  • ※夜のみ、別途サービス料10%をいただきます。
  • ※全席禁煙となります。
  • ※未就学児童(小学生未満)の同伴はご遠慮ください。
  • ※夜のコース料理をご注文の場合は別途、ご予約時にラストオーダー時間をご案内いたします。
  • ※お支払いには、ダイナースクラブカードをご利用ください。

バックナンバー

  • 第一回 六本木「イマカツ」
  • 第二回 XEX 愛宕 グリーンヒルズ/サルヴァトーレ クオモ ブロス
  • 第三回 福臨門酒家 銀座店
  • 第四回 神楽坂 東白庵かりべ
  • 第五回 六本木「Restaurant Ryuzu」
  • 第六回 神谷町「ダ オルモ」
  • 第七回 「NINJA AKASAKA」
  • 第八回 日比谷「レ セゾン」
  • 第九回 六本木「厲家菜(レイカサイ)」
  • 第十回 銀座「ESqUISSE(エスキス)」
  • 第十一回 「新ばし笹田」
  • 第十二回 西麻布「レフェルヴェソンス」
  • 第十三回 「青空」(はるたか)
  • 第十四回 みかわ 是山居(みかわぜざんきょ)
  • 第十五回 フレンチファインダイニング「シグネチャー」
  • 第十六回 アルヴェアーレ
  • 第十七回 すきやばし次郎
  • 第十八回 白金台「TIRPSE(ティルプス)」
  • 第十九回 銀座「流石Le蔵」
  • 第二十回 六本木「エディション・コウジ シモムラ」
  • 第二十一回 南青山「鮨ます田」
  • 第二十二回 広尾「はしづめ」
  • 第二十三回 五代目 野田岩 麻布飯倉本店
  • 第二十四回 銀座「馳走啐啄(そったく)」
  • 第二十五回 五反田「ヌキテパ」
  • 第二十六回 日本橋室町「LA BONNE TABLE」
  • 第二十七回 麻布十番「ケ・パッキア」
  • 第二十八回 東銀座「ムッチーニ」
  • 第二十九回 銀座「ル・ブール・ノワゼット トウキョウ」
  • 第三十回 築地「和光」
  • 第三十一回 銀座「Furuta」
  • 第三十二回 神楽坂「山さき」
  • 第三十三回 銀座「ときとう」
  • 第三十四回 六本木「BLT STEAK ROPPONGI」
  • 第三十五回 麻布台「SUGALABO」
  • 第三十六回 家全七福酒家 銀座店
  • 第三十七回 三田「コート・ドール」
  • 第三十八回 四ッ谷「後楽寿司 やす秀(みつ)」
  • 第三十九回 上野・御徒町「ぽん多本家」
  • 第四十回 西麻布「マルゴット・エ・バッチャーレ」
  • 第四十一回 銀座「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」
  • 第四十二回 根津「釜竹」
  • 最終回 丸の内・パレスホテル東京「クラウン」
  • ※バックナンバーでご紹介しているメニュー、料金、時間などの内容は取材した時点での情報であり、予告なく変更となる場合があります。また店舗の都合により予告なく閉店している場合もありますのであらかじめご了承ください。

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