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<山本益博の料理エッセイ>この店、私のお気に入り 山本益博

第五回 六本木「Restaurant Ryuzu」

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食材と真摯に向き合う。

いまから2年ほど前に料理人の名言を集めた「人間味という味が、いちばん美味しい」(大和書房刊)を上梓した。
言ってみれば「料理をめぐる言葉の御馳走」集なのだが、この本の中にジョエル・ロブションからじかに聞いた話をいくつも載せた。たとえば「料理とは、頭で考えたことを手で表現する仕事である」、「毎日の仕事を、疎かにせず、正確に繰り返していると、ある日、ひらめきが湧いてくる!」、「ごくありふれた食材から小さな奇跡を生み出す」などなど。

この本のなかには収めなかったのだが、ロブションさんに出逢った1980年代半ばに訊いた言葉で忘れられないのが 「料理人というのは、魚でも肉でも、たとえたった一枚の葉っぱでも、その命を絶って調理するのだから、お客様の口元へ届けるまで、食材に対する尊敬の念を忘れてはなりません」だった。

"教え"は、守ることのほうが大変。

ジョエル・ロブションのもとで働く料理人は、この「素材に対する敬意」を学びながら仕事をしているわけだが、彼の店から巣立っていった若い料理人で、ロブションの薫陶を受けながら、その大切な「素材に対する敬意」を忙しさにかまけてついつい忘れがちになるシェフも少なくない。

だが「Ryuzu」の飯塚隆太シェフは、恵比寿の「シャトーレストラン」や六本木の「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」で働いていた時代からロブション師の教えを忠実に守って調理する料理人のひとりである。

"小さな幸せ"が、その手から届けられる。

この春から幾度も味わった皿のひとつに、ブルターニュ産の最上等のオマールを丸ごと使った「オマール海老のロティ」がある。火の通しを間違えると、オマール海老の香り、甘味を台無しにしてしまうのだがこのロティはいつも絶妙の火入れ加減で、「素材に対するシェフの敬意」を食べるたびに味わった。

どれほど多くの仲間を誘って出かけたか知れない。
なにしろ、今年一番足繁く通ったレストランは、間違いなく「Ryuzu」である。

夏になると「鱧」の料理が出た。日本料理の手法で「鱧」を骨切りし、それを香ばしく油で揚げた一皿。なかよしの日本料理「龍吟」の山本征治さんから手ほどきを受けたもので、見事に骨切りがされながら、ボタンのように咲いた鱧の姿がまったく崩れていない。フランス料理に仕立てられた和の食材が、その命をまっとうした逸品だった。
「和」の食材と言えば、「椎茸のタルト」は、ロブションの「トリュフのガレット」をヒントに創作した飯塚シェフのスぺシャリテである。

こうした飯塚シェフの料理を支えているのが、サービススタッフの素敵なおもてなしである。いつも笑顔で接してくれ、料理やワインの説明も出すぎず、引っ込みすぎず、こちらの出方に合わせて応対してくれる。誠にプロフェッショナルなサービス。いま、日本のレストランのサービスの最高峰と言っても過言ではない。
彼らにサービスされる料理やワインは私たちお客同様とても幸せではないかしらん。

写真・文 山本益博

プロフィール

山本益博

1948年(昭和23年)東京・浅草生まれ。料理評論家。
1973年よりフランスへ出かけて料理とレストラン文化を研究、2014年、フランス政府より農事功労章オフィシエを授与される。米国グラムメディア社『Foodie Top 100 Restaurants: Worldwide』の選者の一人。
「人間味という味が、いちばん美味しい」(大和書房)など食に関する著作のほか、「立川談志を聴け」(プレジデント社)、「名人芸の黄金時代 桂文楽の世界」(中公文庫)などオペラや落語、イチローに関する著作も多い。Webサライで「ひと皿の歳時記」ほか、最新の料理情報などを掲載。「美食の世界地図」(竹書房新書)を2014年1月に上梓。2014年9月に小学館より『鮨 すきやばし次郎 JIRO GASTRONOMY』を出版。

Restaurant Ryuzu

〒106-0032
東京港区六本木4-2-35 アーバン スタイル六本木B1F
03-5770-4236

営業時間
:12:00 - 14:00(L.O.)
:18:00 - 21:30(L.O.)
定休日 月曜日、日曜日不定休(月に1度)

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  • 第二回 XEX 愛宕 グリーンヒルズ/サルヴァトーレ クオモ ブロス
  • 第三回 福臨門酒家 銀座店
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  • 第五回 六本木「Restaurant Ryuzu」
  • 第六回 神谷町「ダ オルモ」
  • 第七回 「NINJA AKASAKA」
  • 第八回 日比谷「レ セゾン」
  • 第九回 六本木「厲家菜(レイカサイ)」
  • 第十回 銀座「ESqUISSE(エスキス)」
  • 第十一回 「新ばし笹田」
  • 第十二回 西麻布「レフェルヴェソンス」
  • 第十三回 「青空」(はるたか)
  • 第十四回 みかわ 是山居(みかわぜざんきょ)
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  • 第四十二回 根津「釜竹」
  • 最終回 丸の内・パレスホテル東京「クラウン」
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