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<山本益博の料理エッセイ>この店、私のお気に入り 山本益博

第六回 神谷町「ダ オルモ」

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元伯爵夫人のオーダーが生んだ“カルパッチオ”

この連載の「サルヴァトーレ クオモ ブロス」では冷たいスパゲッティ誕生秘話をお伝えしたので、今回はカルパッチオ誕生の話をしよう。じつは、前菜で出される冷製の牛肉赤身の薄切り「カルパッチオ」は、イタリア料理の歴史の中では誕生してからまだ50年ほどしか経っていない。生まれたのは、ヴェネツィアの名レストラン「ハリーズバー」だった。1950年代の初めのこと「ハリーズバー」に元伯爵の婦人がやってきて、主人のジョゼッペ・チプリアー二にこう嘆いた。
「ねえ、ジョゼッペ、医者から牛肉のステーキを食べてはいけませんと言われてしまったの、赤身の肉ならいいですって」。
それを訊いたチプリアーニは厨房へ入ると、赤身の肉を前にしてとっさに生肉のまま薄切りにして出すことを思いついた。肉のうえに辛子を加えたマヨネーズソースを流して。その一皿を美味しく食べた夫人は、食後にテーブルに現れた主人にこう尋ねた。

「赤身の薄切りの生肉とても美味しかったわ。なんていうお料理なの?」。

インスピレーションは地元出身の画家から

主人のチプリアーニは先ほどサービスした赤身の肉に白いソースがかかった皿を思い出した途端、この間までヴェネツィア中にはためいていた「ヴィットーレ・カルパッチオ」回顧展の赤と白の幟が脳裏に浮かんだ。赤と白はヴェネツィア出身の画家カルパッチオのテーマカラーだった。とっさに「牛肉の赤身生肉のカルパッチオ風でございます」と、いかにも昔からある料理の名前のように答えた。

これがイタリア料理の「カルパッチオ」誕生の瞬間だった。ヴィットーレ・カルパッチオの絵はヴェネツィアのアカデミア美術館に数多く飾られている。

気持ちが凝縮した小さなリストランテ

さて、今回ご紹介するのは2012年秋にオープンしたばかりの小さなリストランテである。店の名を「ダ オルモ」という。オープンキッチンで、テーブル席とキッチンを前にしたカウンター席で、わずか20席余り。

キッチンにはシェフの北村さんともうひとり、テーブルは原品さんがひとりで取り仕切っている。北村シェフと原品さんは夏まで新宿のイタリア料理店で一緒に働いていた。それが縁で二人で始めたリストランテである。私は新宿時代からのファンで、シェフの手打ちのパスタと肉料理、それを手際よく笑顔でサービスしてくれる原品さんのもてなしに魅かれて新しい店まで追いかけてきてしまった。

手打ちのパスタでは「ピーチ」と呼ばれる太打ちのパスタがお気に入りで、ミートソースがからむとことのほか美味しい。

主菜の熟成肉の炭火焼もパスタに負けじと美味しい。付け合わせの野菜がまた選び抜いたもので、食材に敬意を払って皿の上には牛肉と野菜群が同格に盛つけられている。

厨房内で調理する北村シェフの食材に対する心優しい気持ちを汲みながらいただくと、なおいっそう美味しくなるのだが、
その厨房の隅々まで清掃が行き届いていること。これは、銀座のすし店「すきやばし次郎」がお手本なのだという。

写真・文 山本益博

プロフィール

山本益博

1948年(昭和23年)東京・浅草生まれ。料理評論家。
1973年よりフランスへ出かけて料理とレストラン文化を研究、2014年、フランス政府より農事功労章オフィシエを授与される。米国グラムメディア社『Foodie Top 100 Restaurants: Worldwide』の選者の一人。
「人間味という味が、いちばん美味しい」(大和書房)など食に関する著作のほか、「立川談志を聴け」(プレジデント社)、「名人芸の黄金時代 桂文楽の世界」(中公文庫)などオペラや落語、イチローに関する著作も多い。Webサライで「ひと皿の歳時記」ほか、最新の料理情報などを掲載。「美食の世界地図」(竹書房新書)を2014年1月に上梓。2014年9月に小学館より『鮨 すきやばし次郎 JIRO GASTRONOMY』を出版。

Da olmo

〒105-0001
東京港区虎ノ門5-3-9ゼルコーバ5 1F
03-6432-4073

営業時間
:11:30~14:00(L.O.)
:18:00~23:00(L.O.)
定休日 日曜、祝日
  • ※ご予約は当日の午前中までにお願いします。
  • ※イベント等による貸切等の場合、優待特典はご利用いただけません。
  • ※お子様に関しては予約状況により柔軟に対応いたします。お店に直接お問い合わせください。

バックナンバー

  • 第一回 六本木「イマカツ」
  • 第二回 XEX 愛宕 グリーンヒルズ/サルヴァトーレ クオモ ブロス
  • 第三回 福臨門酒家 銀座店
  • 第四回 神楽坂 東白庵かりべ
  • 第五回 六本木「Restaurant Ryuzu」
  • 第六回 神谷町「ダ オルモ」
  • 第七回 「NINJA AKASAKA」
  • 第八回 日比谷「レ セゾン」
  • 第九回 六本木「厲家菜(レイカサイ)」
  • 第十回 銀座「ESqUISSE(エスキス)」
  • 第十一回 「新ばし笹田」
  • 第十二回 西麻布「レフェルヴェソンス」
  • 第十三回 「青空」(はるたか)
  • 第十四回 みかわ 是山居(みかわぜざんきょ)
  • 第十五回 フレンチファインダイニング「シグネチャー」
  • 第十六回 アルヴェアーレ
  • 第十七回 すきやばし次郎
  • 第十八回 白金台「TIRPSE(ティルプス)」
  • 第十九回 銀座「流石Le蔵」
  • 第二十回 六本木「エディション・コウジ シモムラ」
  • 第二十一回 南青山「鮨ます田」
  • 第二十二回 広尾「はしづめ」
  • 第二十三回 五代目 野田岩 麻布飯倉本店
  • 第二十四回 銀座「馳走啐啄(そったく)」
  • 第二十五回 五反田「ヌキテパ」
  • 第二十六回 日本橋室町「LA BONNE TABLE」
  • 第二十七回 麻布十番「ケ・パッキア」
  • 第二十八回 東銀座「ムッチーニ」
  • 第二十九回 銀座「ル・ブール・ノワゼット トウキョウ」
  • 第三十回 築地「和光」
  • 第三十一回 銀座「Furuta」
  • 第三十二回 神楽坂「山さき」
  • 第三十三回 銀座「ときとう」
  • 第三十四回 六本木「BLT STEAK ROPPONGI」
  • 第三十五回 麻布台「SUGALABO」
  • 第三十六回 家全七福酒家 銀座店
  • 第三十七回 三田「コート・ドール」
  • 第三十八回 四ッ谷「後楽寿司 やす秀(みつ)」
  • 第三十九回 上野・御徒町「ぽん多本家」
  • 第四十回 西麻布「マルゴット・エ・バッチャーレ」
  • 第四十一回 銀座「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」
  • 第四十二回 根津「釜竹」
  • 最終回 丸の内・パレスホテル東京「クラウン」
  • ※バックナンバーでご紹介しているメニュー、料金、時間などの内容は取材した時点での情報であり、予告なく変更となる場合があります。また店舗の都合により予告なく閉店している場合もありますのであらかじめご了承ください。

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