銀座マティーニ 酒場の紳士になりたければ、
まずはマティーニを極めることである。
最上の一杯を求めて、
今夜もまた、銀座のバーを訪ねる。

『バー保志』 お客様は十人百色。
カクテルの味だけじゃなく、
会話や人柄も大切なんです。

文・吉村喜彦 写真・飯田安国

マティーニはガーニッシュがあってこそ、
さらに美味しくなって完成する

 言わずと知れた名店『バー保志』。
 オーナー兼チーフバーテンダーの保志雄一(ほしゆういち)さん(57歳)は、日本と世界のカクテルコンテストで優勝した、超一流バーテンダーのひとりである。

 こう書くと、どこか取っつきにくい人なんじゃないかと想像されるが、まったく逆である。ふんわり優しい応対、そこはかとないユーモアが保志さんを包んでいる。
 たくさんのバーテンダーが『バー保志』から巣立ったのも頷ける。

「マティーニは数えられないくらい種類があるんです」
 そう言って、保志さんはマティーニの誕生から、その後の変遷・進化を語ってくれた。話を聞くと、なんとジンとソーテルヌ(フランスの甘口ワイン)を混ぜたものもあったらしい。そういえば、ヴェルモット(現在のマティーニは基本的にジン+ドライ・ヴェルモット)だってワインの一種だ。甘口ヴェルモットを使った赤っぽいマティーニもあったという。

「ジンとヴェルモットの組み合わせは、どちらかというと、新しい。マティーニはどんどん透明に、辛口になっていったんですね。というのも、ルーズベルトやジョン・F・ケネディがホワイトハウスで飲んでいた。海外の賓客にはマティーニでもてなす。『強いアメリカ』のシンボルだったんじゃないのかな」

 そういえば、スターリンが初めて飲んだマティーニは、1943年のテヘラン会談のときに、ルーズベルト自ら作ったものだったそうだ。

 「マティーニはひじょうに幅が広いんです。『これがマティーニだ』って法律みたいに堅苦しく考えなくていいんじゃないですか。バーテンダー一人ひとりの気持ちが、それぞれのマティーニを作り上げていくと思います。なので、私は自由な発想でやらせてもらっています」
 ほんとにその通りだ。保志さんの話を聞いていると、肩のこりがほぐれていくようだ。

 保志さんは言う。
「私の場合、ガーニッシュを含めて、トータルでマティーニの味わいになります」

 ガーニッシュ……?

「英語ではgarnish。『料理の付け合わせ』とか『つま』のことです。カクテルの味をさらに引き立ててくれるもの。たとえば、アイラ・モルトに合わせる『いぶりがっこ』とか。マティーニの場合、アルコール度数が高いので、オイリーなものを添えることで身体のためにもいいかな、と」
 保志さんのマティーニのガーニッシュは――グラスの中のオリーブはもちろん。外付けでグリーンとブラック・オリーブのマリネ、そしてカシューナッツである。

「マティーニはオリーブがあって、マンハッタンはチェリーがあって、さらに美味しくなって、完成するんです」
 ガーニッシュのないマティーニは、画竜点睛を欠くマティーニなのだ。

臨床検査技師から
世界を目指してバーテンダーに

 保志さんは高校卒業後、臨床検査技師をやり、その後、宇都宮のパブ『パイプのけむり』のアルバイトからこの道に入ったという。

「カクテルって色がカラフルだし、接客するのも楽しかった。その頃、『バーテンダーでも世界に挑戦できるんだ』ということに気づいたんです。臨床検査技師とは、白衣を着るというのが共通していましたね」
 そう言って白い歯を見せる。
 保志さんの「世界への挑戦」というテーマはその後の人生をしっかり貫いている。

 宇都宮から銀座に出てきて、『リトルスミス』『バー東京』のチーフバーテンダーをつとめ、2004年に『バー保志』をオープン。
「挑戦するなら、社交業の頂点の土地と思っていました。銀座は、こだわりをもったお客様が多いので、バーテンダーに対して、不味(まず)かったら『不味い』とはっきり言う。すべてのお客様に満足していただくよう、タイミングやお酒の量などをそれぞれ調整しながらお出しする。人って、いつも同じ状態じゃないですよね。十人十色ではなく十人百色。単にカクテルの味じゃなく、会話や人柄も大切。『初めての方には常連さんのように。常連さんには初めてのお客様のように』というのが基本です」

 保志さんは洞察力の人なのだ。だからこそ、間(ま)があり、突っ込みがあり、ボケもある。なにより、心地よい「距離感」を保つことに細心の注意を払っている。バーテンダーにとって会話や人柄は、マティーニのオリーブと同じ。ガーニッシュなのだ。

 マティーニを作ってもらう。
 ジンはタンカレーNo.10。ヴェルモットはシャンベリー。
十分にステアし、かすかな水が香りを引き立てていく。
オレンジビターズをグラスの縁、そして全体にシュッ。

 ひとくち飲む――。

 何というやわらかさ……まるで水のようだ。
柑橘系の香りが清々(すがすが)しい。

 思わず二口目を飲む。ジンの輪郭が徐々にくっきりとしてきた。
 外付けのグリーンオリーブのマリネを食べる。上品な油がするすると体内に膜をつくる。
 凛としたマティーニなのに、日向(ひなた)ぼっこをしているような、不思議なあたたかさがある。
 液体に角(かど)がないからだろうか……。
 ヴェルモットの香りが優しく、しかし、しっかりと立ってきた。

 ジュニパーベリーと柑橘系の香り、ジンとヴェルモット、ガーニッシュとマティーニ、客と自らとの距離感――保志さんのマティーニとは、すぐれてバランスの液体だった。バランスがいいものは飽きが来ない。
 だから、かぎりなく水に近いのだ。

『バー保志』
おすすめカクテル

 「ケネディ大統領はおそらくマティーニが大好きで、ホワイトハウスで作っていたと思うんです。で、彼に作ってあげるなら、こんなマティーニだったら喜んでくれるかな、と思って考えたレシピです」
 その名も「JFK」というカクテルである。

タンカレーNo.10 45ミリリットル
ドライ・シェリー(ドンソイロ) 10ミリリットル
グランマニエ(オレンジリキュール) 5ミリリットル
これらをマティーニと同じようにステア。

 スタッフド・オリーブを沈め、オレンジピールを2ダッシュ。最後に、大きめのオレンジピールをひねって霧をとばし、豪快に火を点ける。
 オレンジ風味の絶品マティーニ。甘酸っぱくて、しかも、ドライ。醤油風味に焼き上げたカシューナッツとの相性抜群。もちろんオリーブとも。

バー保志

東京都中央区銀座6-3-7 AOKI TOWER8F
営業時間:18:00~27:00
(土・日曜、祝日は~25:00)
定休日:年中無休

03-3573-8887

ダイナースクラブ会員様限定<優待サービス>

<2015年1月1日~12月31日まで>
『バー保志』は、「ダイナースクラブ ナイト イン 銀座」に参加しています。
*「ダイナースクラブ ナイト イン 銀座」は、銀座で選りすぐりのオーセンティックバーや高級会員制クラブを、気軽にご利用いただくための優待プラン。
バーではウェルカムドリンクをご用意し、皆様のご来店をお待ちしております。

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よしむら のぶひこ

1954年生まれ。京都大学卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。最新刊『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫)が大好評発売中。その他の著書に『ビア・ボーイ』『こぼん』(ともにPHP文芸文庫)『マスター。ウイスキーください』(コモンズ)『漁師になろうよ』『リキュール&_スピリッツ通の本』(ともに小学館)『食べる、飲む、聞く 沖縄 美味の島』(光文社新書)など多数。NHK-FM「音楽遊覧飛行」のナビゲーターとしても活躍中。

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2015.03.02

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