Number 117

今月の一皿

写真・岡村昌宏 文・下谷友康 
Photographs by Masahiro Okamura(Crossover) 
Text by Tomoyasu Shitaya

愛すべきビストロ

relaxing and finding yourself through a quality glass of wine relaxing and finding yourself through a quality glass of wine

カジュアルかつ上質――贅沢なワインリストと鮮やかな料理に胸ときめく……
6年連続で2つ星に輝くパリの名店『パサージュ 53』で2年間の修業を積んだ若きソムリエが、
新進気鋭のシェフとコンビを組んで開いた小さな店。
これこそが、愛すべきビストロだ。

真鱈白子のソテー 春菊のソース ポロねぎの焼きリゾット

 どの駅からもそこそこの距離があるので、散歩中にふらっとではなく、わざわざ食べに行く店だ。でもその価値がそこにはちゃんとある。美食家の友人に「最近お気に入りのビストロがあるので」と連れて行ってもらった『336 ébisu』は、いっぺんに僕の“お気に入りリスト”入りした。

ブルゴーニュとシャンパーニュに特化したワインのラインアップは強烈だ。ソムリエで代表の山﨑智隆さんにその理由を尋ねると「好きだから!」のひと言。単一品種のおもしろさ、深さ、年代による違いは、知れば知るほど興味深く、ブルゴーニュの魅力に、どっぷりとはまってしまったそうだ。

 ところで『336 ébisu』の店名は、山﨑さんがパリで修業した2つ星レストラン『パサージュ53』をリスペクトして、恵比寿3-36-1の住所から。それほど『パサージュ53』をリスペクトしているのだ。パートナーとして選んだシェフは、偶然ワイン会で出会った齊藤駿さん。物静かなシェフだが、繊細ながらも随所に強い主張を感じさせる料理だ。

国産合鴨骨付きもも肉のコンフィ

「国産合鴨骨付きもも肉のコンフィ」は、齊藤さんが一番好きな料理。キツネ色になるまで焼き上げた皮目とジューシーな肉質のコントラストがおもしろい。マディラ酒に漬けた合鴨肉と、一緒に煮込んだオリーブとの相性も抜群だ。この料理にぴったりと、山﨑さんがすすめてくれた、ブルゴーニュのジュブレ村のワインも充実している。そんな中から“今日のパートナー”となる一本を探すのはとても楽しい。この時季の旬、「真鯛白子のソテー 春菊のソース」も、ねっとりとした白子と、表面がカリカリの焼きおにぎり風のリゾットに、春菊のほろ苦いソースが絶妙に絡む。

グラン・クリュを含むジュヴレ・シャンベルタンのワインがずらり

 ここは、若い二人の可能性が無限大に広がる新しい空間。僕はビストロがあまり得意ではなかったが、この店と出合ってすっかり変わってしまった。それほどまでに魅せられたのは、上質なワインと料理だけでなく、彼らの謙虚ながらも熱心な姿勢が、楽しみなのだからだと思う。

『336 ébisu』店内

336 ébisu

牛カイノミのステーキフリット

シニアソムリエ 山﨑智隆とシェフ齊藤 駿

シニアソムリエ

山﨑智隆

Tomotaka Yamazaki 

シェフ

齊藤 駿

Hayao Saitoh

Information

336 ébisu

東京都渋谷区恵比寿3-36-1
営業時間 ランチ12:00~15:00
(土・日曜のみ。月~金曜は4名以上で予約可)
ディナー18:00~24:00
定休日 不定休

今月のもう一皿

ムムッ! ムーレット?

 まずは画像を見ていただきたい。濃厚な赤ワインのソースの上に、分厚く切られたベーコンと、とろとろの半熟卵がふたつ――これはおいしくないワケがない。

赤ワインと相性抜群のこの料理、名前は「半熟卵のムーレット ベーコンとシャンピニオン ド パリの赤ワインソース(1,200円/税抜)」という。フランス・ブルゴーニュ地方の郷土食で、元々は余り物の煮込みの中に卵を投げ入れて作る無骨な料理だ。

半熟卵のムーレット ベーコンとシャンピニオン ド パリの赤ワインソース

 白とベージュが基調の洗練された雰囲気の『336 ébisu』にあってアンバランスなまでにずっしりとした見た目のこの料理。しかし、口にしてみると思いのほか軽やかだ。ベーコンの旨みと後を引くソースの風味、そして卵の黄身のクリーミーな舌触り。三者が絶妙に合わさり、まったりとした余韻が残る。

 そこには、齊藤さんの繊細な仕事が隠されている。たとえば、ソースは重くなりすぎないように本来のレシピでは使われることの少ない鶏のブイヨンを主に使い、自家製のベーコンは脂のニュアンスを損ねないよう、燻製時間を短く調整している。齊藤さんいわく「ムーレットを提供するお店は都内でも少ない」のだとか。珍しい「もう一皿」目当てに『336 ébisu』を訪ねてみてはいかがだろう。

※内容は全て掲載時のものです。その後、変更されていることもありますので、あらかじめご了承ください。

*前回取材の「伝統を踏まえつつ、天婦羅をよりカジュアルに。『天婦羅 あら井』」も併せてご覧ください。

2017.02.21

この内容に興味がありましたか?