「京都の静寂 京の隠れ宿」第四夜

京町屋の奥に佇む、茶の心が生きる「離れ」の宿 京町屋の奥に佇む、茶の心が生きる「離れ」の宿

日月荘じつげつそう

京都人が「御所南」と呼ぶ、京都御所の南に広がる閑静な住宅街。その中に建つ、かつて呉服商の居宅として使われていた一軒の町家は、知る人ぞ知る宿として旅人を静かに迎えている。

文・新家康規(アリカ) 写真・橋本正樹
Text by Yasunori Niiya(Arika Inc.) Photographs by Masaki Hashimoto

『日月荘』通り庭に設けられたレセプション

壷中日月長(こちゅうじつげつながし)――壷の中のように限られた小さな世界には、平和で穏やかな時間が流れている。「壷中」は悟りの境地を、「日月長」は悠々と人生を送る様を表す禅語だ。この語にちなんだ宿『日月荘』が、京都御所から南へ歩いて数分の住宅街にひっそりと佇む。

 呉服商の旧宅だった町家。格子戸を開け、水を打たれた敷石を踏み、玄関へとつながる細いアプローチをまっすぐ進む。正面の戸を開けると通り庭が。「おくどさん」と呼ばれる昔の台所や井戸の横を抜け、「うなぎの寝床」とも称される京町家独特の細長い造りを、さらに奥へと進む。一枚の戸を開く度に、町の喧噪が徐々に遠くなり、同時に日常からも切り離されていくような感覚に包まれる。やがて人ひとりがようやく通れるほどの通路の先に、今宵の宿が現れた。

 ここは、2013年にオープンした町家の宿。『日月荘』と記された浮き彫りの看板が戸口に掛けられている以外、ここが宿であることを示すものは何もない。敷地内は宿泊客だけが足を踏み入れることを許された静謐な空間だ。

『日月荘』八畳の居室

『日月荘』楢の造作棚

『日月荘』居室のふすま引手は折松葉の意匠

 『日月荘』は、京都らしい和の意匠に包まれた空間で、ゆったり気ままに過ごしたい人のための宿。昼間はコンシェルジュが常駐するレセプションがあり、希望があれば事前に宿泊客の要望を細かく聞き、可能な限り快適な滞在ができるよう準備を行っている。自分の別荘のようにリラックスした滞在をしながら、ホテルのようなもてなしが受けられる宿なのだ。

 かつて京都大学の学生の下宿として使われていたという離れの建屋は、主に茶室などを手掛ける京都の数寄屋大工によって宿へと生まれ変わった。「上質な休息時間には、自然に身体が感じる快適さが重要」との考えのもと、室内には選び抜かれた材料を使用している。土・すさ・水で作った本聚楽壁(ほんじゅらくかべ)に、檜の錆丸太を使った床柱、ふすまの折松葉の引手など、洗練された意匠が凛とした空気を放つ。

 八畳の居室には、畳の上にオリエンタルな雰囲気の絨毯が大胆に敷かれていた。聞けば、パキスタンのものだという。和の空間に意外にも調和し、祇園祭の山鉾(やまほこ)に掛けられた懸装品を彷彿とさせる。

 入口からダイニングを経て寝室へとつながる床には、無垢の松が使われており、素足で歩けば木の温もりが柔らかに伝わってくる。身体に良い寝具で極上の睡眠をとってほしいという想いから、寝具は天保年間創業のIWATAのベッドを採用。枕元の間接照明に照らされ、かすかに輝く雲母(きら)摺りの唐紙は唐長製。いずれも京都の人々に愛されてきた老舗の技が光る品だ。

 また、浴室にも他所ではなかなか目できないものが。浴槽に使われているのは大谷石(おおやいし)。遠赤外線効果が高いという石風呂に浸かると、ちょうど目の高さに作られた小窓から坪庭が望める。その心地良さにいつもより長湯をしてしまうこと必至である。

『日月荘』六畳の寝室

『日月荘』坪庭を望む浴室

『日月荘』キッチンの横に置かれた杉の一枚板のテーブル

『日月荘』居室から望む坪庭

「町家の奥の世界」 に広がるこの宿は、思い思いの時間を客のペースで過ごせるよう仲居はいない。しかし、隅々まで繊細な心配りがなされ、心が解きほぐされるような空間が用意されている。

 離れに隣接する蔵の2階は、防音設備が整った音楽室に改装されている。利用(有料)は、コンシェルジュのいる日中に限られるが、持ち込んだCDをじっくり聴いたり、スタインウェイのピアノで自分たちだけの音楽会と洒落こむのもいい。

 また、この宿にはミニキッチンが備えられ自炊も可能だが、近隣には京都屈指の料亭や割烹、レストランが数多くあり、事前に相談すればコンシェルジュがおすすめを案内してくれる。たとえば、京料理ならば、6年連続ミシュランの三つ星を獲得する『一子相伝 なかむら』。フレンチならば京野菜を使った絵画のように美しい料理が魅力の『Restaurant 青いけ』など、徒歩圏内の名店に予約を入れてくれる。

『一子相伝 なかむら』

『一子相伝 なかむら』の「白味噌辛子雑煮」

『Restaurant 青いけ』の「猪とフォアグラのパイ包み焼き」

『Restaurant 青いけ』

『日月荘』蔵の2階の音楽室

『日月荘』コンシェルジュ

『日月荘』庭

『日月荘』漆塗りの文箱

京都ならではの洗練された設いに囲まれる『日月荘』だが、意外にもこの宿のオーナー・大谷菜穂子さんは京都出身ではない。大分の造り酒屋に生まれ、東京の会社に勤めていた頃に習い始めた茶道が京都との縁のはじめ。やがて茶道の勉強のため京都に足を運ぶ機会が増えるにつれ、「いつかは京都に暮らし、お茶と向き合う生活がしたい」という想いを秘めるようになっていったという。また、大谷さんは宿泊業の仕事がしたいという夢も持っていた。そんなとき知人から、新しい住み手を探す呉服商の居宅を紹介され、家族のバックアップもあり、夢が実現した。「ご縁があって守ることになった京町家を、このゆったりした雰囲気のまま生かしたいという想いが強くなったんです」

 「実家の造りにも似たところのある町家の手入れは懐かしい感じ」と話す大谷さん。町家を手に入れてから、その独特の建築について、使われている材木の性質なども含め勉強したという。「京都の町家は、普段は他人を入れない裏側にも美意識がちりばめられています。限られた人しか見ることができない町家の奥に入り、京都に趣味で住む感覚の滞在できる場所を作れば喜ばれるはず。そんな想いからこの町家の宿を始めました」

『日月荘』には玄関が2つある。一つは、通り庭に面した離れの客室への入口。もう一つは、かつての母屋の玄関だ。母屋の中には、茶室が設けられている。宿泊者がいない日限定で茶道愛好家による茶会が開かれる茶室だが、宿の客も事前に予約すれば一服の茶をいただくことが可能だ(有料)。

 「せっかく京都にいるのですから、お客様にはぜひお茶を楽しんでいただきたい。まだまだ勉強中の身ですが、私がお茶を通して学んだ繊細な季節感をお伝えできたら」と語る大谷さんは茶道歴20年超で、裏千家茶道准教授の許状を有している。宿全体に端正な美をたたえているのは、「一期一会」を重んじ客をもてなす茶の湯の考えが浸透しているからだろう。

 京町家の中に作られた茶室という小宇宙で、整えられた掛物や茶花、そして四季を映した茶菓子を愛で、匂やかな茶を楽しむ。「壺中日月長」。古都ならではの緩やかな時の流れを感じたい。

『日月荘』

日月荘

京都市中京区高倉通竹屋町下ル福屋町716
1室 75,600円~(2名様ご利用時、食事なし、税・サービス料込)
チェックイン 12:00~18:00、チェックアウト 12:00

075-211-3100(10:00~17:00)

http://www.jitsugetsusou.com/

※『日月荘』では、ダイナースクラブカードがお使いいただけます。

ダイナースクラブ会員限定特典

『日月荘』抹茶と季節のお菓子

お菓子は『甘楽花子』製

本記事を見てご予約の方に、
茶室で「抹茶と季節のお菓子」をご提供します。

※ご予約の際は、ダイナースクラブ ウェブサイトをご覧の旨、お伝えください。

※お支払いはダイナースクラブカードをご利用ください。

※特典の提供時間については、ご予約時にコンシェルジュとご相談ください。

※画像はイメージとなります。

※季節によりお菓子の内容が変わります。

【実施期間】 
2018年5月31日(木)まで

*「京都の静寂 京の隠れ宿」第三夜『祇園のビルに潜む ミシュラン4つ星のデザイナーズホテル KIZASHI THE SUITE』もあわせてご覧ください。

*会員特典は、各加盟店が提供します。

2017.05.23

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