ギンザ八丁たてよこ散歩 ギンザ八丁たてよこ散歩

Vol.7

見番通りを歩けばふと見つかる、
ビルの屋上の隠れ家とは?

「隠れ家」を標ぼうする飲食店はずいぶん増えてきたが、
今回訪ねたところは、場所も店構えも正真正銘の「隠れ家」である。
銀座の古いビルの屋上にたどり着くと、
何やら懐かしくもあり、新しくもある別世界が待っていた。

文・山口正介 写真・長坂芳樹

Text by Shosuke Yamaguchi 
Photographs by Yoshiki Nagasaka

『月のはなれ』バルコニー席

『月のはなれ』店内

銀座には古風なビルもまだ数多く残っているが、そのペントハウスは謎に満ちている。僕がこのカフェを知ったのも、そんな謎に導かれた結果だった。

 最近、仲間うちでは昭和歌謡がちょっとしたブームになっている。特に当時とは趣向を変えてラテン風にアレンジしたり、ジャズ風にしたりして演奏しているものが好まれる。そんなある日、ふと目にした情報が、昭和歌謡をボサノバにして歌う歌手のCDがあるという記事だった。

 僕は本は本屋、CDも小売店で買うことにしているのだが、どうも該当する製品は店頭にないようだった。どうやらネット販売のみということらしい。そんなこともないだろうと、彼女のライブ演奏を検索すると、銀座で近々、ライブがあるという。

 僕は日常的に銀座をぶらぶらと歩いているので、このライブは好都合だった。当該ライブの会場は、『月光荘サロン 月のはなれ』 となっていた。『月光荘』といえば、銀座の画材店として老舗中の老舗だ。僕も何度か画材を購入したことがある。

 「大空の月の中より君来しや ひるも光りぬ夜も光りぬ」と与謝野晶子が詠んだことにより、『月光荘』と名付けられた、創業百余年の名店だ。

『月のはなれ』のホルンモチーフ

『月光荘』の店のドアにも書かれているトレードマークのホルンは、与謝野夫妻をはじめとする小山内薫、芥川龍之介、島崎藤村、有島武郎などの文化人グループが一緒に考案してくれたといわれている。まさに「友を呼ぶホルン」なのである。

 その初心に戻って、いまの時代のサロンとなればと2013年に開業したのが、この『月のはなれ』であるという。

 まずは画材店の『月光荘』に赴き、この近くの見番通りにあるという『月のはなれ』の場所を聞いた。分かりにくいですよ、とお店の人が言った訳はすぐにわかった。この辺りはバーやクラブなどが入るビルが立ち並ぶ、昔の銀座の姿を残しているエリアだ。かつて『月光荘』が倉庫にしていたところを店舗に改装したという『月のはなれ』はそんなエレベーターもないビルのペントハウスに位置していた。古いビルのご多分に洩れず急峻な階段を登り切ったところに別世界が開ける。

『月のはなれ』店内の壁面には現代アーティストの作品。

『月のはなれ』の「お絵描きセット」

ここが銀座ですと言われても、信じない人がいるだろう。緑に囲まれた瀟洒(しょうしゃ)なパティオの奥に隠れ家的なバー・レストランが佇んでいた。

 提供される料理は珍しくクレオール料理だという。ケイジャン料理を洗練させた、ニューオリンズの風土料理だ(カナダのアルカディアからニューオリンズに移住したフランス系の移民という意味がなまって、ケイジャンと呼ばれる)。アフリカから連れてこられた人々が好んだ煮込み料理がガンボだ。かねてから食べたいと思っていたのだが、この店ではじめて食することになるとは、思いもしなかった。

『月のはなれ』店長の遠藤信介さん

『月のはなれ』バーカウンター

『月のはなれ』名物チキンガンボ

『月のはなれ』与謝野ブルームーン

 音楽もニューオリンズは多彩だ。ジャズはもちろん有名だが、フレンチ系黒人が作ったザディコ。地元のミュージシャン、アラン・トゥーサンの音楽には、ネイティブ・アメリカンのドラミングや、貿易で栄えた頃に流入した中国人労働者がもたらした東洋趣味の影響も感じ取れる。そういえば、ドクター・ジョンのアルバムに『ガンボ』というのもあった。ことほど左様に多彩なニューオリンズである。

『月のはなれ』夜の様子

 この『月のはなれ』も夜毎、ライブ演奏の会場となる。その音楽も多彩なもので本格的なジャズから昭和歌謡のボサノバとか、多種多様なミュージシャンがラインナップされているのだった。

月の光に照らされて、名物のカクテル、「与謝野ブルームーン」を傾ければ、気分はもうトルーマン・カポーティか。

『月のはなれ』夜の様子 ライブ演奏

月光荘サロン 月のはなれ

東京都中央区銀座8-7-18
月光荘ビル5F

営業時間 14:00~23:45(L.O.23:00)
※土曜は12:30~23:30(L.O.22:45)
定休日 日・祝 ※貸し切りの場合は営業します。

月光荘サロン『月のはなれ』

やまぐち・しょうすけ氏

[著者プロフィール]
やまぐち・しょうすけ

作家。映画評論家。1950年、作家・山口瞳の長男として生まれる。桐朋学園芸術科演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て、小説、エッセイなどの文筆の分野に転身。銀座の散歩はヤマハのサクソフォン教室、映画の試写などに通っているうちに「ほぼ日課」となる。主な著書に『正太郎の粋 瞳の洒脱』『山口瞳の行きつけの店』『江分利満家の崩壊』などがある。

*ギンザ八丁 たてよこ散歩Vol.6「30年の時をこえ、熊本の酒がよみがえる」もあわせてご覧ください。

2017.06.27

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