「京都の静寂 京の隠れ宿」第五夜

古き佳き時代の文化薫宿で旧宮家の美意識に浸る 古き佳き時代の文化薫宿で旧宮家の美意識に浸る

吉田山荘よしださんそう

銀閣寺にもほど近い吉田山の中腹、神社仏閣に囲まれた高台に一軒の宿が建つ。
書院造にモダンなステンドグラスが設えられた和洋折衷建築は、昭和初期の洗練された文化が薫る、
かつての宮家別邸だ。

文・新家康規(アリカ) 写真・橋本正樹
Text by Yasunori Niiya(Arika Inc.) Photographs by Masaki Hashimoto

吉田山荘 外観

 時鳥(ほととぎす)人まつ山に鳴くなれば我うちつけに恋ひまさりけり [紀貫之]……一服の茶とともに呈された和歌を読み、ふと顔を上げると、波打ちガラスの先には東山三十六峰が。涼やかな風が御簾(みす)を静かに揺らす。ここは京都・吉田山の中腹。真如堂や金戒光明寺といった名だたる仏閣を望む料理旅館『吉田山荘』だ。近隣には銀閣寺や吉田神社などもあり、洛東観光には絶好のロケーションである。

吉田山荘 2階の客室

吉田山荘 裏菊紋

吉田山荘 表唐門

吉田山荘 ステンドグラス

1932年(昭和7年)築の本館は、東伏見宮(ひがしふしみのみや)家の別邸として建てられた。今上天皇の叔父にあたり、当時伯爵の位を授けられていた東伏見宮邦英王(くにひでおう)は、京都帝国大学(現京都大学)の入学以降、講師時代を含め、ここから同大へ通っていたという。戦時中に得度していた邦英王は法名を慈洽(じごう)と称し、戦後、京都・東山にある青蓮院門跡の門主となった。東伏見宮家の皇籍離脱により主を失った別邸は、1948年(昭和23年)より料理旅館となったが、邦英王は2014年に103歳で亡くなるまでこの邸を度々訪れた。
 屋根瓦や襖の引手などには、その歴史を物語る紋が。菊の花を裏から見た東伏見宮家の紋「裏菊紋」だ。

 堂々たる構えの表唐門から始まるアプローチ。高台へと登る坂道の途中で視線を上げると、緑の木立越しに瓦屋根の2階建てが姿を現す。国の登録有形文化財に認定された総檜造り。伊勢神宮社殿などにも用いられる両面柾目(まさめ)無節の木曽檜が贅沢に使われた建屋は、昭和初期の宮家建築の風貌をつぶさに伝える和洋折衷様式だ。考古学や哲学、仏教学に造詣が深かった邦英王は自らも設計に携わり、その碩学ぶりは館の随所に見てとれる。玄関の脇に設えられた円窓は、明治期に奈良の新山古墳から出土した直弧文鏡(ちょっこもんきょう)がモチーフ。その縁の文様がカタカナの「フシミ」のように読めることから邦英王が気に入り、それをかたどる連弧文のステンドグラスも部屋の窓に設えられた。また、玄関の欄間には法隆寺の意匠、蓮華文様が施されている。

  • 吉田山荘 寿の間
  • 吉田山荘 花の間
  • 吉田山荘 バルコニーからの眺望

全4室の本館客室。今宵の部屋は2階の「寿の間」だ。格天井や違い棚、付け書院などが当時のままに残された空間には典雅な薫りが漂う。やはり宮家別邸の頃のままという窓辺のアームチェアに腰を下ろせば、眼前には隅々まで手入れされた庭が広がる。耳を澄ませば、風に乗って鳥や虫の音が。自然がもたらす極上のBGMだ。ほかにも客室は、1階の「黄金の間」「南天の間」、2階の「福の間」があり、すべてが庭を望む南向きだ。

 廊下の先には、寄木張りの床が目を引く洋室「花の間」がある。宿泊客なら自由に過ごせる間には邦英王愛用の鏡台や棚など、往時の調度品がそのままに。広々としたバルコニーに出れば「五山の送り火」で知られる大文字山が目の前。手すりの意匠は、やはり法隆寺の金堂にある卍崩しを取り入れたもの。和と洋がまさに心地良く融け合う、寛ぎの館である。

吉田山荘 会席料理 焼き物

 1階の「松」「竹」「月」と続く和室は食事用の部屋。四季折々の変化に富む庭を眺めながら、一組一室でいただく。夕食は京都産の旬菜をふんだんに用いた会席料理だ。前菜に始まり椀物、おしのぎ、焼物と、目にも華やかな品々が続く。この日は京の夏を感じさせる鱧の椀物が登場。おしのぎで供される人気の「お福餅」は有機栽培の十六穀米と、もち玄米に小豆がたっぷり。凝縮された穀物の旨味が口中に広がり、ついお代わりしたくなる一品だ。

 翌朝、和洋が選べる朝食の後は、敷地内のカフェ『真古館(しんこかん)』でコーヒーをいただく。本館の趣とは異なるドイツ風建築は、かつての車庫を改装したもの。窓外に広がる緑の眺めは、旅の朝をさらに爽快にしてくれる。

吉田山荘 会席料理 椀物

吉田山荘 会席料理 おしのぎ

吉田山荘 朝食後のコーヒー

吉田山荘 カフェ『真古館』

吉田山荘 若女将の中村知古さん

吉田山荘 「紫黒米飴」とお茶

宮家の趣を古都の文化とともに旅人へ伝えたいと、日々心づくしのもてなしをするのは女将の中村京古(きょうこ)さん。チェックインの際、紫米から作る「紫黒(しこく)米飴」とお茶に、「古今和歌集」などから採った和歌を添える。「ここに宿る宮家の文化の一端をお伝えするのが、この宿だからこそできるおもてなしだと考えています」。女将の筆による歌は、客人や時季に応じて変わるので、コレクションする常連客も。海外からのゲストには英訳を添え、語学堪能な若女将の知古(ともこ)さんが解説することもあるという。

 「より多くの人にこの空間の美に触れていただきたい」との想いから、食事のみの利用も受け付け、カフェも開放。さらに、四季折々に移ろう古都の自然を味わってもらう機会を積極的に設けている。これからの季節は、送り火の観賞会や十五夜の月を生演奏とともに愛でる月見コンサートなども楽しみだ。

 宮家が育んだ洗練の美が薫る宿『吉田山荘』。平安歌人がホトトギスの声に想いを寄せたごとく、季節の繊細な移ろいを肌に感じ、古都に流れる上質な時間をじっくりと味わいたい。

『吉田山荘』

吉田山荘

京都市左京区吉田下大路町59-1
1室1名 本館[トイレ・バス共用]43,470円、離れ[トイレ・バス付き]93,150円(ともに2食付き、税・サービス料込)
チェックイン 本館16:00、離れ15:00
チェックアウト 本館10:00、離れ11:00

※『吉田山荘』では、ダイナースクラブカードがお使いいただけます。

ダイナースクラブ会員限定特典

吉田山荘 生原酒 京古

本記事を見てご予約の方に、
宿から夕食時に日本酒「生原酒 京古」をご提供。

※ご予約の際は、ダイナースクラブ ウェブサイトをご覧の旨、お伝えください。

※お支払いはダイナースクラブカードをご利用ください。

【提供期間】 
2018年3月31日(土)ご宿泊分まで

*「京都の静寂 京の隠れ宿」第四夜『京町家の奥に佇む、茶の心が生きる「離れ」の宿 日月荘』もあわせてご覧ください。

2017.07.19

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