ギンザ八丁たてよこ散歩 ギンザ八丁たてよこ散歩

Vol.9

ずっと観ていても飽きることのない
盆栽の世界とは

銀座の花椿通りをコリドー街のほうから東に向かって歩く。
中央通りを過ぎると、左手に盆栽店がみえる。
ずうっと前から気になっていたお店だ。
今回は知っているようで知らない、盆栽の世界を覗いてみよう。

文・山口正介 写真・長坂芳樹

Text by Shosuke Yamaguchi 
Photographs by Yoshiki Nagasaka

『銀座 雨竹案』店先

『銀座 雨竹案』店先

盆栽ショップ『銀座 雨竹庵』があるのは、銀座7丁目の花椿通り。
お店の前にある盆栽が目印です。

究極の趣味といわれていただろうか。あるいは、最後にたどり着く趣味だったか。

 趣味としての盆栽を、そんな感じで捉えていた。どうも、自分の時間を大切にする趣味人、粋人といわれるような人たちが、密かに愛好するのが盆栽ではないかと考えていた。ということは、僕にとっては、かなり距離があるなあ、と諦めていたのだ。

 そんな気持ちが動いたのは、映画『ブレードランナー』を観たときだった。作中のアンドロイド製作会社、タイレル社の社長室にそれとなく盆栽が置かれていた。

 盆栽といえば、茶室の床の間に季節ごとの名品を置くのが作法だと思っていたのだが、どうも、外国のセンスのいい人たちのほうが、その魅力を充分に理解しているようだ。

 このあたりから、僕の盆栽に対する考えが変わっていった。もっと自由に考えていいのではないだろうか。たとえば、自宅に和室がなくても、サイドテーブルや窓辺に盆栽を飾ることができる。インドアのガーデニングという捉えかたでいいではないか。

『銀座 雨竹庵』店長の島田浩さん

最近は、欧米で盆栽がブームになっている。特に冬の長い欧州では、日中の日差しも弱く、人々は緑に飢える。そんなとき、室内に森林を持ち込める盆栽は目に優しく、安らぎを与えるのではないだろうか。冬の室内に豊かな緑を取り込めるというのは、単に趣味としてではなく、健康や精神衛生にも貢献するのだろう。

 それは日本においても同じことだ。とかく緑が少なくなったという都市の高層住宅での生活に盆栽を持ち込むことは、とても大切なことと思える。

 ということで、盆栽の専門店である『銀座 雨竹庵(うちくあん)』を訪れることにした。ここはお洒落な店構えで、以前から気になっていた。しかし、盆栽というと高尚な趣味という印象があり、二の足を踏んでいたのだった。

『銀座 雨竹庵』店内で会話をする島田浩さんと山口正介

『銀座 雨竹庵』盆栽を眺める山口正介

『銀座 雨竹庵』では、見事な盆栽の数々を観ながら、店長の島田浩さんからいろいろとお話をうかがうことができた。それは、僕自身の先入観を覆すものだった。

 盆栽趣味というのは、自分自身で育てるものだと思っていたのだが、よく考えれば、そんなことは無理だということが分かる。ちょいとした小品でも、樹齢50年は当たり前、これはと思う立派な作品は樹齢百年を超えるものもざらだろう。それでは、持ち主のほうが、完成形を見ることなく終わってしまうだろう。

『銀座 雨竹庵』置物

『銀座 雨竹庵』置物と石

『銀座 雨竹庵』石

『銀座 雨竹庵』店内の盆栽

『銀座 雨竹庵』店内の盆栽

『銀座 雨竹庵』店内の盆栽

盆栽だけでなく、店内には石や置物も。一つひとつじっくり見ているとあっという間に時間が過ぎてしまいます。

 となると、ある程度、完成されたものを購入することになるのだという。専門店で気に入ったものを探して、それから自分で丹精込めるということになる。それが樹齢半世紀を超えるものだったりするのだった。苗木を購入する庭木とは、そのあたりが違うのだった。

 また、ポチポチと植木鋏を使って枝振りを整えている光景が目に浮かぶのだが、実際には水やりのほうが大変そうだ。夏場は1日に2度は水やりをする必要があるという。それは盆栽の語源でもある器が小さいことにもよる。保水力をあげるために水苔などを使っているが、あの大きさを考えると、やはり乾燥しやすいといえるだろう。

『銀座 雨竹庵』店内の盆栽

その器も大切であることも意外な発見だった。樹齢百年を超えるものに、今どきの新作陶磁器は似合わない。やはり、骨董的な味が出ていた年代物の器が、好まれるようである。

 そして、その取り合わせの妙を楽しむこととなる。また、同じ盆栽でも角度を調節することにより、様ざまな味わいを見せることとなる。植え直して角度や器の中での位置を替えることにより、一鉢の盆栽を様ざまに楽しむことができるのだった。これも知らないことだった。

 床の間がなくても、室内に緑をという観点から、この平安時代から脈々と続く伝統の美を追求したくなった。

『銀座 雨竹庵』外観

銀座 雨竹庵

東京都中央区銀座7-9-10 銀七ビル

営業時間 11:00~19:00(土・日・祝は~18:00)
定休日 水曜

やまぐち・しょうすけ氏

[著者プロフィール]
やまぐち・しょうすけ

作家。映画評論家。1950年、作家・山口瞳の長男として生まれる。桐朋学園芸術科演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て、小説、エッセイなどの文筆の分野に転身。銀座の散歩はヤマハのサクソフォン教室、映画の試写などに通っているうちに「ほぼ日課」となる。主な著書に『正太郎の粋 瞳の洒脱』『山口瞳の行きつけの店』『江分利満家の崩壊』などがある。

*ギンザ八丁 たてよこ散歩Vol.8「銀座の外堀通り、『わたしたち』のお店で沖縄の風にふれる」もあわせてご覧ください。

2017.08.15

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