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<山本益博の料理エッセイ>この店、私のお気に入り 山本益博

第一回 六本木「イマカツ」

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戦後の外食チャンピオン「とんかつ」の進化。

この10年ほど前から、東京は第2期「とんかつ黄金時代」に入った。
第1期は昭和の30年代から50年代にかけてで、浅草、上野をはじめとんかつ専門店があちこちに誕生し、ごはんにあう御馳走として、また、戦後世代のカロリー源としても、外食のチャンピオンだった。

ところが、豚肉の餌となるものが変わって質が低下し、それにとって代わるように牛肉が肉料理の花形として登場してくると、とんかつの人気は一段落してしまったのだった。それから20年、牛肉に倣って豚肉の飼育を改良する動きが出てきて、日本各地で牛肉同様の銘柄豚(ブランド豚)が誕生し始めた。ブームを作りだすきっかけになったひとつが、スペインのイベリコ豚ではなかろうか。スペイン料理店、フランス料理店で出されるイベリコ豚の生ハムが人気を呼び、それが豚肉そのものにまで飛び火していった。あとの様相は、皆さんご存知の通りである。

「平成のとんかつ」3つの特徴。

第1期黄金時代のとんかつを「昭和のとんかつ」とするなら、第2期黄金時代のとんかつは「平成のとんかつ」と区分けしてよいだろう。
その「平成のとんかつ」の特徴は、すでに3つある。
ひとつは、どの店も豚肉の質に気をつけて、柔らかくて肉汁が溢れ、脂身が舌の上で溶けてゆき、くどさがない。

特選ロースかつ膳

パン粉の衣の香ばしさは、とんかつの大きな魅力だが、それとともに豚肉を揚げるうえでとても大切な役割を演じているのだ。とんかつを揚げるというより、もっと仔細に言えば「蒸し」揚げていると言ってよい。「蒸し」揚げるためには、豚肉の肉汁を衣の中に閉じ込めておかなくてはならない。

さらに、三つ目は、「蒸し」揚げたとんかつは、穏やかな甘み十分だから、ソースをじゃぶじゃぶかけるより、塩で食べた方が味わいが深くなるのである。そのために、とんかつソース、ウスターソースの横に塩が必ず用意されている。

ぴよぴよメンチ

だから、六本木「イマカツ」。

これらの3つの条件をクリアしている第1級の「平成のとんかつ」として、胸を張ってお薦めできるのが、六本木「イマカツ」である。私のいちばんのお気に入りは「特撰ロースかつ膳」。庖丁が丁寧に入ったカツを一切れ頬張ると豚肉ならではの香りと脂身の溶けてゆく甘みが渾然一体となって、誰しもが陶然となってしまうはずである。

「特撰ヒレかつ膳」も、今までのひれかつのイメージを完全に覆すほどで目を瞠るような美味しさである。半熟卵を包み込んだ「ぴよぴよメンチ」も素晴らしい。

名物の「ささみカツ」は鶏のささみを優しく揚げて、豚肉では表現できない美味しさを生んでいる。夜だと、特注で土鍋のごはんがオーダーできる。とんかつが一層美味しくなること請け合いである。

土鍋ごはん

特選ヒレかつ膳

写真・文 山本益博

プロフィール

山本益博

1948年(昭和23年)東京・浅草生まれ。料理評論家。
1973年よりフランスへ出かけて料理とレストラン文化を研究、2014年、フランス政府より農事功労章オフィシエを授与される。米国グラムメディア社『Foodie Top 100 Restaurants: Worldwide』の選者の一人。
「人間味という味が、いちばん美味しい」(大和書房)など食に関する著作のほか、「立川談志を聴け」(プレジデント社)、「名人芸の黄金時代 桂文楽の世界」(中公文庫)などオペラや落語、イチローに関する著作も多い。Webサライで「ひと皿の歳時記」ほか、最新の料理情報などを掲載。「美食の世界地図」(竹書房新書)を2014年1月に上梓。2014年9月に小学館より『鮨 すきやばし次郎 JIRO GASTRONOMY』を出版。

六本木 イマカツ

〒106-0032
東京都港区六本木4-12-5 フェニキア ルクソス 1階
03-3408-1029

営業時間 昼:11時半~16時(月~土)
夜:16時~23時(22時半ラストオーダー)
定休日 日・祝日

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  • 第一回 六本木「イマカツ」
  • 第二回 XEX 愛宕 グリーンヒルズ/サルヴァトーレ クオモ ブロス
  • 第三回 福臨門酒家 銀座店
  • 第四回 神楽坂 東白庵かりべ
  • 第五回 六本木「Restaurant Ryuzu」
  • 第六回 神谷町「ダ オルモ」
  • 第七回 「NINJA AKASAKA」
  • 第八回 日比谷「レ セゾン」
  • 第九回 六本木「厲家菜(レイカサイ)」
  • 第十回 銀座「ESqUISSE(エスキス)」
  • 第十一回 「新ばし笹田」
  • 第十二回 西麻布「レフェルヴェソンス」
  • 第十三回 「青空」(はるたか)
  • 第十四回 みかわ 是山居(みかわぜざんきょ)
  • 第十五回 フレンチファインダイニング「シグネチャー」
  • 第十六回 アルヴェアーレ
  • 第十七回 すきやばし次郎
  • 第十八回 白金台「TIRPSE(ティルプス)」
  • 第十九回 銀座「流石Le蔵」
  • 第二十回 六本木「エディション・コウジ シモムラ」
  • 第二十一回 南青山「鮨ます田」
  • 第二十二回 広尾「はしづめ」
  • 第二十三回 五代目 野田岩 麻布飯倉本店
  • 第二十四回 銀座「馳走啐啄(そったく)」
  • 第二十五回 五反田「ヌキテパ」
  • 第二十六回 日本橋室町「LA BONNE TABLE」
  • 第二十七回 麻布十番「ケ・パッキア」
  • 第二十八回 東銀座「ムッチーニ」
  • 第二十九回 銀座「ル・ブール・ノワゼット トウキョウ」
  • 第三十回 築地「和光」
  • 第三十一回 銀座「Furuta」
  • 第三十二回 神楽坂「山さき」
  • 第三十三回 銀座「ときとう」
  • 第三十四回 六本木「BLT STEAK ROPPONGI」
  • 第三十五回 麻布台「SUGALABO」
  • 第三十六回 家全七福酒家 銀座店
  • 第三十七回 三田「コート・ドール」
  • 第三十八回 四ッ谷「後楽寿司 やす秀(みつ)」
  • 第三十九回 上野・御徒町「ぽん多本家」
  • 第四十回 西麻布「マルゴット・エ・バッチャーレ」
  • 第四十一回 銀座「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」
  • 第四十二回 根津「釜竹」
  • 最終回 丸の内・パレスホテル東京「クラウン」
  • ※バックナンバーでご紹介しているメニュー、料金、時間などの内容は取材した時点での情報であり、予告なく変更となる場合があります。また店舗の都合により予告なく閉店している場合もありますのであらかじめご了承ください。

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