SIGNATURE2016年01_02月号
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ColumnSignatureText by Yoshimi HASEGAWAPhotograph by Sadato ISHIZUKA19はせがわ よしみ|ジャーナリスト。イギリスを中心にヨーロッパの魅力をメンズファッションや文化の視点から紹介。著書に『サヴィル・ロウ』『ハリスツイードとアランセーター』など、2016年3月に『ビスポーク・スタイル』を刊行予定。www.yoshimihasegawa.tumblr.com『大国の興亡』ポール・ケネディ著 鈴木主税訳草思社 1988年(上・下巻)第10回文・長谷川喜美 写真・石塚定人 何度読み返しても、新しい発見がある。この本はそんな本である。 英国の歴史学者ポール・ケネディによる『大国の興亡』。その副題は「1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争」となっている。英語の原題は『THE RISE AND FALL OF THE GREAT POWERS』だから、これは訳者の鈴木主税氏によるものだと思うが、本の内容を簡潔に表している。 500年の間に西欧世界では何が起きたのか。一度大国となった国々がなぜ衰退したのか。サー・ウィンストン・チャーチルが「歴史は勝者によって書かれている」と語ったように、歴史の真実を知ることは難しい。この本では、その答えが膨大な資料と数値を用いて客観的に説明されている。 読む度に気になる個所を折っていたので、今では折ったページがかなり目立つ。私が何度も読み返しているのはイギリスという「かつての大国」の隆盛だ。不思議なことに、今までイギリスとは何かしら縁があり、自然に繋がるようになっている。イギリスのスーツや靴に興味を持ち、本を書くようになったのもそのひとつだろう。ちから この本では1900年のイギリスの国力をこう説明している。「世界でかつて例のなかったほど大きな帝国を所有し、1200万平方マイルの陸地と地球の人口のほぼ4分の1を支配していたのである」。ちょうど同じ頃、ロンドンの紳士服の聖地サヴィル・ロウに現存する最古のテーラー『ヘンリー・プール』は世界最大のテーラーとなった。世界最大の王室の庇護と、世界中に派遣される軍隊の膨大な需要が、紳士服の中心地としての地位を決定的なものとしたからだ。この事実が、この本を読むと実感として迫ってくる。 私にとって男性の服飾が持つ独自の魅力は、それが宮廷服や軍服といった実用品として生まれ、政治や経済と強く結びつき発達してきた歴史を持ち、それが現代のスーツと靴の意匠にも反映されていることだ。 私にとって歴史を知ることは、いつも刺激的だ。それは自分の内なる世界を常に広げてくれる。LIFE with BOOK1かつての大国とサヴィル・ロウ

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