SIGNATURE2016年01_02月号
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ブラジルのイグアス国立公園内の唯一のホテル『ベルモンドホテル・ダス・カタラタス』の夜明け時、数百種類はいるという鳥の声が、窓から聞こえ始める頃。ホテルのゲストならば、この「絶好の瞬間」を逃してはならない。目指すは、世界三大瀑布のひとつ、イグアスの滝の一番奥の滝壺だ。ホテルの真ん前からでも、滝は眺めることができる。ただしホテルのスタッフは「これはイグアスの滝のほんの20パーセントだよ」と笑う。それくらいこの滝は、広範囲にわたっているのだ。夜明け時が「絶好の瞬間」というのには2つの訳がある。まずは大前提として、この時刻(取材時の8月では朝6時ごろ)は、国立公園は閉園されていて一般客は入ってこられないから。つまり開園前に国立公園内にいられるのは、このホテルのゲストの特権なのだ。2つめの訳は、夜明け時はホテルのゲストでさえもよほどの早起きがいない限り、まだ誰も滝へと向かっていない。つまり、この「絶好の瞬間」をつかむことができれば、世界遺産のイグアスの滝を誰にも邪魔されることなく、独り占めすることができるのだ。滝沿いの歩道を、独りリズミカルに歩いていく。時折、朝露に濡れたクモの巣が頬を撫でる。これこそが、この日朝一番で滝に向かっている証しだ。そんな優越感に浸りながら、ところどころにある絶景ポイントで、大自然の地形が織りなわけす滝の多様な流れを眺める。その度に大きく深呼吸、滝から発せられるマイナスイオンを体内に思いっきり吸い込む。歩を進めると、次第に滝の音が大きくなる。目指す滝壺に近づくにつれて、それは轟音となって体にずっしりと響いてくる。洋服や髪は、コーヒーシュガーのようなごく細かい水しぶきにしっとりと湿り始めた。目的地はもうすぐそこだ。そしてそれが、突如として目の前に現れた。手を伸ばせば水に触れてしまうほど、歩道は想像以上に滝壺のすぐそばまで張り出している。あまりの迫力に、おもわず足がすくむが、勇気を出してぐっと一番近くにまで進む。1秒たりともとどまることなく、莫大な水がどっと流れ落ちる。そのダイナミックな在り様に、恐怖、畏怖、感動、歓喜といったさまざまな感情が綯交ぜになって、一気に心に押し寄せてくる。どんなに大声を張り上げて叫んでもかき消されてしまうこの滝の存在の大きさに、地球の巨大なパワーを見せつけられた。イグアスの滝の楽しみ方は、こればかりではない。ありとあらゆる角度から、その多様な水の流れを目に焼きつけたい。まずはヘリコプターで空からの眺めを。ヘリコプターに乗り込んで、一気に川を遡り、滝の全体像を見渡す。前ページの眺めはまさにそのヘリコプターから。ゆったりとした水の流れが一気に滝に集められ、吸い込まれ、流れ落ちていく様子が見て取れる。まずは滝の全貌を把握すないま偉大なるイグアスの全貌Special Feature : Brazil, Iguazu to Rio de Janeiro右:滝を巡るアトラクションの一つ、ボートツアーでは、イグアスの滝の真下にボートで突っ込むというスリリングな冒険が待っている。防水対策は必須だが、ポンチョくらいではあっという間にずぶ濡れに。暖かい季節ならば、水着とビーチサンダルがおすすめだ。右から:ブラジルとアルゼンチンの国旗の色で国境を示す橋。/アルゼンチン側の国立公園では、広大な敷地内をレトロな列車が走る。/イグアス国立公園内では100種類以上の鳥類が棲息する。黄色いくちばしのオニオオハシ。バードパークで見かけたカラフルな羽のオウム。          

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