SIGNATURE2016年01_02月号
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たかはし なおこ/ブラジル在住15年のメディアコーディネーター、ライター。北中南米で日本のテレビ局、制作会社をクライアントに、撮影や中継をコーディネート。国際イベントの製作、運営。ファベーラなどのNGOや、スポーツなどを得意分野とする。この街は今、変化を遂げようと必死だ。市内のいたるところで地を揺らす建設工事の騒音、光り輝く新しい競技会場にミュージアム。古い高架橋は煙を立てて崩れ去り、その地にライトレールが、もうすぐ軽やかなリズムを刻むのだろう。そして五輪後解体され学校になることを夢見るスタジアムに、スポーツを介し子どもたちの成長を願って企画される様々なプログラム。建設や対策の遅れを批判されながらも、それでもリオデジャネイロは五輪というイベントに誘われて、まさに統合的なトランスフォームを図ろうとしているのだ。一方で道路建設のために押しやられ、物価上昇に悲鳴をあげる住民は、不十分な治安、社会福祉対策に怒りを高める。公立病院の行列はもはやため息さえ漏れないし、雨が降れば街は沈み、教室は水が滴る。カリオカ(リオっ子)は、変わらなければいけないリオをも痛感している。それでも「ブラジルの魂」、リオを人々は愛し続ける。どんなに建築物が増えても、どんなに抱える問題が深刻でも、そこは愛の花園であり、魅惑の大地。サンバが歌いあげる美しいリオは、変わらずそこにあるのだ。木々があふれる植物園では、アントニオ・カルロス・ジョビンのボサノバが聞こえ、愛するサッカーチームへの情熱にカリオカは心を震わせる。街角に流れるサンバも、打楽器が身体を揺さぶるカーニバルも、そして静かに打ち寄せる波もすべてが、カリオカがカリオカであるために不可欠なのだ。双子山を奥に望むイパネマビーチの夕日を見に、日の入りの時刻になるとアルポアドールの岩の上に人々が寄り合う。昼間の白い砂浜に照りつけた太陽が一日の終わりを告げると、その功績を讃えるかのように、どこからともなく湧く拍手。美しさを前に人々が一体となる光景だ。 「変わるリオと、変わるベきリオ、そして変わらないリオ」。想いが混じり合い、リオはどこへ向かっているのだろうか。街を見守るキリスト像が広げる両腕の下で、今年も、サンバが響く季節がやってきた。変わるリオ、変わるべきリオ、変わらないリオ文・高橋直子Special Feature : Brazil, Iguazu to Rio de Janeiro右上:コパカバーナビーチでその石畳と同じ柄のパレオを売り歩くカリオカ。左上:ファベーラと呼ばれる貧困街。アーティストがカラフルにペイントしたり、警察が常駐することで治安が改善している。右:コパカバーナビーチで2016年のオリンピックをアピールする砂のアート。中:名曲「イパネマの娘」を生んだ伝説のカフェ。左下:オリンピック開催を待つメインスタジアム。39
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