SIGNATURE2016年01_02月号
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ツ、遊びは、かなり高等なものかもしれない。それだけゆたかな面を持ち合わせているのだろう。〝人の喜び、幸福の表情には皆どこか共通しているものがあるが、悲しみ、不幸せのかたちはどれも違う表情をしている〟という言葉がある。それだけ人間は悲しみと出逢うということであり、その悲しみが皆かたちを違えているのは、〝人間の生〟の複雑な所であり、多面性をかかえて生きている証しでもある。それが事実であるとしたら、悲しみの只中にいる人に、そう簡単に慰めの言葉や、軽口を叩いてはいけないことになる。基本は見守ることであろうが、それでも私は〝悲しみにはいつか終りが訪れる〟と敢えて言うようにしている。悲しみとは違うが、あの〝球聖〟と呼ばれたボビー・ジョーンズが、あそこまでのプレーヤーになれたのは、初めての全英オープンであまりの自分の不甲斐ないプレーに逆上し、クラブを放り捨ててプレーをやめたことがきっかけであった。生涯彼はその行為を恥じていた。そのボビー・ジョーンズが、年始めのゴルフ、つまりその年初めてのゴルフのアドバイスとしてこう言っている。〝やっとゴルフコースに出て、今年初めてのショットの時は、はやる気持ちをおさえて、ともかくゆっくりスイングすることだ〟あの〝球聖〟でさえ、急いでしまったのだろう。それほどゴルフには魅力があるということか。 9Shizuka Ijuin一九五〇年山口県防府市生まれ。八一年、文壇にデビュー。小説に『乳房』『受け月』『機関車先生』『ごろごろ』『羊の目』『少年譜』『星月夜』『お父やんとオジさん』『いねむり先生』『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』など。エッセイに、美術紀行『美の旅人』シリーズ、本連載をまとめた『旅だから出逢えた言葉』、『大人の流儀』シリーズなど。近刊に『それでも前へ進む』(講談社)、『無頼のススメ』(新潮新書)がある。最新刊『追いかけるな 大人の流儀5』(講談社)が好評発売中。
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