SIGNATURE2016年03月号
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たくみそう とび かんなで、そうであるがゆえに開窯以来の伝統的な技法がしっかりと守られている。重要無形文化財にも指定され、その文化的価値は年を重ねるほどに高まっている。一軒、坂本工さん、創さん親子の窯元を訪ねた。その名前だけで、小鹿田焼に寄せる思いが伝わってくる。お二人は、横並びの2台のろくろを前に黙々と作業していた。手馴れた仕事ではあっても、目は一点を見つめ、神経が張り詰めている感がその指先からも立ち上ってくる。小鹿田焼の代名詞とされている紋様は、飛鉋と呼ばれる細かい幾何学模様。ろくろを蹴り回しながら、短い金属片を皿の表面に当てていく。かつては柱時計のゼンマイを使っていた時期もあると聞く。これにより上の写真のような美しい連続パターンの紋様が描かれていく。この紋様は宋の時代の中国で始まったとされるが、現在、本家の中国でもあまり行われていないらしい。その手法が残されている窯元は、日本全国でも少ない。トビカンナ。素朴で、用の美に徹した渋みのある紋様。昨今は観光の地として貸切バスなども立ち寄る小鹿田の里。唐臼の音に和み、陶芸家の匠に歴史の連なりを教えられる。「私らは昔から何も変わっていないんですけどね」と工さんは苦笑し、息子の創さんは「変えたら小鹿田焼とは言えなくなる」と快活に笑った。市街地の豆田町に戻り、江戸時代からの蔵元『クンチョウ酒造』へ。薫長という銘柄の日本酒は水清い日田でこそ花開き、今日まで親しまれてきた。全国区の知名度を誇る「日田天領水」も日田の名水の象徴。平成の世にあって、日田には昭和も大正も明治も江戸の時代も、途切れることなく流れている。天と地を循環する水の恵みそのままに。水清き所に、名陶あり。水佳き所に、銘酒あり『クンチョウ酒造』では、酒蔵の2階を酒蔵資料館として開放している。文政9年(1826年)に建てられた酒蔵には古い木桶などが納められている。ショップでは、各銘柄の試飲もできる。一切の熱処理をせずに新酒の時期から低温貯蔵庫で管理している生酒をはじめ、風味豊かな銘酒の数々が待ち受けている。35右:『日田天領水』の本社敷地内には、水の恵みに感謝するお社が立っている。左:『クンチョウ酒造』は昔ながらの家並みが残る豆田町でもシンボル的な存在。レンガ造りの煙突が天を指す。クンチョウ酒造住所:大分県日田市豆田町6-31TEL:0973-22-3121http://www.kuncho.com/
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