SIGNATURE2016年03月号
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熊本県と県境を接する竹田市。九重連山や祖母山、阿蘇山系などに囲まれ、この町もまた清冽な水に恵まれた土地だ。名水の郷として県内外にも広く知られる。あちらこちらで水が湧き、それらは竹田湧水群と総称される。一日の湧水量は6万トンから7万トンにもおよぶ。平日の午後だった。ある湧水所での光景。10名ほどもいただろうか、湧水口に列をなし、流れ出る水を2リットルサイズのペットボトルに注ぎ込んでいる。1本2本という慎ましやかな数ではなく、掛け算することその20倍、30倍の量が満たされていく。手さばきに澱みはない。皆、通い慣れ、中にはこ、 こ、 だ、 け、 、 で会、 う、顔見知りもいるようで、傍目にはちょっとした寄り合いの場にも思える。大分市内から軽トラックで来たという熟年のご夫婦に話を聞いた。夫婦で小料理店を営んでいる方だった。 「竹田の水は質がいいけんねえ。そのまま飲んでもいい。ご飯炊くにもいい。お茶やら珈琲を淹れるんでも、焼酎やウィスキーの水割りに使うんでも、ひと味違う。品がいい。ウチはこの水が生活と商売の基本にあるんよ。そうやなかったら、車で2時間もかけてここまで来んわ。こん軽トラもこのために買うたようなもん。普段は乗りゃあせん」竹田を囲んだ山系の伏流水。いわば天然の濾 こ ご主人はそう言って運転席に腰を下ろし、シ過器を通って磨きに磨かれ、雑味を取り去った水であるから、清澄であること極まりない。結局そのご夫婦は、計5ダース、60本のペットボトルに軽トラの荷台を占領させた。 「今日は平日やけん、人も多くはないけど、土・日はそら大変で。こんな数やないけんな。県外ナンバーも含めて、ようけ来るけん」ートベルトを締めた。満足の行く 仕、 入、 れ、を終えくじゅう流れる。溢れる。湧き出す。浸る。潤う。飲む。安らぐ。42上下:長湯温泉郷はどこでも炭酸ガスを含んだ湯。平均すると700ppmだが、ラムネ温泉の値は1380ppmにも跳ね上がる。内湯の温度は42度。露天湯と交互に入ることでより効果があるとされる。家族風呂も設けられ、そこでも温度の異なる2つの浴槽が用意されている。建築、内庭に据えられた彫刻、シンボルマークの作製、それらはすべて日本を代表する著名な面々が携わっている。上下:滝のようにも見えるが、これはダム。国の重要文化財にも指定されている「白水ダム」だ。レースのカーテンがたなびくような前面と、階段状になった側面。これはもはやアートの領域にある。水が織りなす美の世界。
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