SIGNATURE2016年03月号
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ぬぐた安堵の表情が浮かんでいた。こちらは小さいサイズのペットボトルの用意もしていなかったから、両の掌を合わせた器で湧き水を飲んだ。喉を滑降していく水は冷涼で、食道という体内の一本道をすっきりと浄化していった。竹田にも名湯が点在する。長湯温泉郷にある『ラムネ温泉館』へ行った。ここの湯はネーミングに示されているままに、微発泡の炭酸泉。炭酸ガスを高濃度で含んだ温泉は皮膚に速やかに浸透し、血管を広げ、血流を促す。露天の風呂に入った。湯の温度は32度。ヌルイ。けれどもその分、長湯ができる。長湯温泉郷の名にここで初めて合点がいく。浴槽に体を沈めても、決してシュワシュワと刺激的な感覚はしないが、長短合わせたすべての体毛に微細な泡が付着する。奥に陣取った常連衆が、こちらを体験初心者と見抜いたようで「泡が付いたら何べんでも指で拭うといいんで」とアドバイスしてくれる。気温の32度なら暑いけれども、湯温の32度はヌルさを超えて冷たくも感じる。それでもじっと10分程度浸っていると、体の芯から徐々に予期せぬ温もりが湧いてくる。ご老体の常連衆は「出たり入ったりで、足したら1時間はゆうにおる」と事もなげに言った。 「仲間と居ったら、しゃべりよんうちにあっという間に時間も経つわ」この温泉には美術館も併設されている。竹田を旅し、この地をこよなく愛した作家・川端康成がしたためた書の額が掛かっている。「有由有縁」。〝人と人、人と物事との出会いに偶然はない。すべて理由があって縁を結んでいる〟という意味。「水清ければ魚棲まず」という格言があるが、独断で微修正をほどこしてみたい。「水清ければ人心豊かなり」。 お う だかわ上2点:地元、竹田高校出身のオーナーが東京からUターンしてオープンした店。イタリアンを基調としながらも、県産の椎茸や牛肉豚肉、野菜、果物を食材に使った幅広い料理が愉しめる。冬場は鹿肉などのジビエもメニューに載せられる。43オステリア・エ・バール・リカド 住所:大分県竹田市竹田町498TEL:0974-62-2636 営業時間:17:30〜24:00 定休日:月曜日https://www.facebook.com/recadcafe/timeline下2点:竹田に数ある湧水の中で、最も湧き出す量が多いのが「河宇田湧水」。水は自然からの恵み。万物の源。ラムネ温泉館住所:〒878-0402 大分県竹田市直入町大字長湯7676-2電話:0974-75-2620営業時間:10:00〜22:00定休日:毎月第1水曜日(※1月と5月は第2水曜日に移動)http://www.lamune-onsen.co.jp/ *現金のみOitaCalm Waters Run DeepSpecial Feature
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