SIGNATURE2016年05月号
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知恵と工夫の保存食「十津川ゆべし」写真・大志摩徹 文・品川雅彦奈良県の最南部に位置する十津川村は、川、滝、峡谷などの自然美に満ち、東京23区全体よりも広い面積を有する。耕地が少ないため、古くから知恵と工夫を凝らした保存食が生み出されてきた。その代表格が「ゆべし(柚餅子)」。柚子をくり貫き、そば粉・味噌・もち米粉・鰹節・椎茸・胡麻・大豆・唐辛子・落花生・昆布・酒・味醂を調合したものを詰め込んで蒸し、寒風にさらして乾燥させる。そうすることによって、表面は黒く硬くなっていき、豊かな栄養分に富んだ保存食となる。右に列挙した原材料からもわかるように、砂糖は使われていない。つまり、お菓子のジャンルには属さない。地元では、スライスしてチーズを挟んで酒の肴としたり、緑茶や紅茶と共に食されたり、お粥やお茶漬けにも添えられる。江戸時代には携行食としても重宝したと伝えられる。写真の品「十津川ゆべし」。素朴 な藁のパッケージから取り出せば、爽やかな柚子の香り。薄く切って口に運べば、いくつもの原材料が見事に融合した柔らかな塩気、ほのかな甘みが広がる。伝統の食は今も古びず、新たな愛好者を迎えてくれる。26Photograph by Toru OshimaText by Masahiko Shinagawaお問い合わせときのもり LIVRER電話03-6277-2606東京・港区の白金台に今年1月にオープンした『ときのもり』では、奈良県産の食材を使った料理や加工品などを提供している。「十津川ゆべし」は1階のカフェ&ショップでも販売。吉野檜の棚や、吉野杉を用いた椅子やテーブルなど、奈良・大和の上質なテイストが活かされた空間となっている。十津川ゆべし 1個1,000円(税抜)デジタル版シグネチャーは下記よりご覧ください。http://www.diners.co.jp/ja/sig/m1605/What’s new ?GourmetTotsukawa Yubeshi
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