SIGNATURE2016年05月号
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ョン・ケージ。東洋思想、哲学にも興味を持ち、鈴木大拙の講義を聴くなど禅仏教からも影響を得た。《4分33秒》は1952年初演の音楽作品で演奏者がピアノの前に座り、そのまま4分33秒間、鍵盤に触れることなく演奏が終了する。「融通無碍」の禅の思想に関心を持った、彼の代表作と言われている。毎年、3月にベルリンで行われるフェスティバル〈メルツ・ムジーク〉。2012年はケージ生誕100年を記念して「ジョン・ケージとその後」という企画だった。ちょうど、ドイツ学術交流会の招待でベルリン滞在中の足立智美も、それまで国内外でケージの作品や影響を受けた作品のパフォーマンスを行っており、フェスに参加した。彼は以降、活動の拠点をベルリンに移し、欧州を中心に活動を続けている。 「《4分33秒》は有名なので、この作品のことは中学生くらいの時に知りました。聴くという行為、演奏する意味を大きく変えた音楽作品ですね」と足立は語る。驚きをんもって享受することはもはや不可能だと感じるため、自分でこの曲をあえて演奏する強い理由は感じない。ケージの作品に関しては自分なりのアプローチを心がけている。 「1986年、東京のサントリーホールの開館コンサートでのケージの《エトセトラ2》(オーケストラを4つのグループに分け、それぞれに指揮者を付けて演奏するピース)をラジオで聞い然性、不確定性による作曲技法で知られるアメリカ人作曲家ジゆうずうむげて、本当に衝撃を受けました」すでに作曲家になりたいと考え、今後、世界はどんな風に変わり、自分には何ができるかと悩んでいたのも同じ頃。金沢という禅仏教に遠くない場所で生まれ育った本人は実は禅寺に通ったことがあるという。中学から高校へと進学する多感な頃、この2つの体験はその後、作家として生きていくことを決めたきっかけにもなった。ヨーロッパに移住してからは、同業者の禅に対する捉え方にやや批判的だ。 「自分の周りにいる芸術家の中には座禅に通っている人もいます。ただ、話しているうちにヨーロッパ人は禅を都合よく理想化しているけれど、なかなか自身の二元論から逃れられないのだなと矛盾を感じることはありますね」違和感もあるが、国内よりも断然、1 偶 実験音楽やケージの曲を演奏する人も聞く人も多いヨーロッパは、彼にとって魅力である。人の出入りが激しく、新しいものにもオープンなベルリンにいるとチャンスが巡ってくるし、刺激を受ける。相互融合も生まれているのである。禅を聴く38Interview with Tomomi ADACHIText by Yumiko URAE Photographs by Shinji MINEGISHISpecial FeatuteThe art of ZenSearch Inside Yourselfベルリンのアーティスト・レジデンス「Lake Studios」での音とダンスのインプロ・ナイト。このパフォーマンスでも偶然性はひとつのテーマだった。チェロリストのウルリケ・ブランドとの共演の《Scores》。楽譜とは? 足でチェロとバイオリンを弾くなど、継続するプロジェクト。あだち ともみ|1972年生まれ。現代音楽の演奏や作曲、音響詩や即興音楽、映像、サウンド・インスタレーションの制作など幅広い領域で活動。日本の現代音楽家らと共演多数。テート・モダン、ポンピドゥー・センター、ベルリン芸術アカデミーなど世界各地で公演を行う。 www.adachitomomi.com文・浦江由美子 写真・峯岸進治サウンドパフォーマー・作曲家 Profile人生を変えた、ジョン・ケージと禅の世界足立智美
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