SIGNATURE2016年06月号
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DL(故障者リスト)入りしながら25勝12敗と立派な勝ち星を残した。それでも田中は悔しさを滲ませる。 「エースは1年間で230〜240イニング投げるのが当たり前。イニングが足りない。もちろん勝つことが一番ですけれどたないと。僕は2年間で数か月マウンドを空けてしまった。そこですね、一番の心残りは」2015年、田中将大は日本人投手としては野茂英雄、松坂大輔、黒田博樹に次いで開幕投手の大役を任された。プレーオフでは一発勝負のワイルドカードゲームでも先発ピッチャーに指名された。大一番を託される。まさに名門ヤンキースの「エース」である。しかし、ワイルドカードで投げ合ったアストロズのダラス・カイコ投手は、20勝で最多勝。シーズンでは232イニング投げ切ったうえで、中3日で登板しヤンキースを0点に封じた。エースの田中で敗れ、ヤンキースはシーズンを終えた。まぎれもない事実だ。 「日本にいた時には、自分がそういう立場でない時でもマウンドに上がったら、『ピッチャーはエースだろうが何番手だろうが関係ない』『プロ1年目からオレが抑える』という気持ちだった」先発を託された開幕も、ワイルドカードも、持ち前の制球力が影を潜めたところをスタンドに運ばれ敗戦投手となった。 「普通の試合なら、5回2失点で投手交代することはなかったと思う。でも、超短期決戦はトーナメントと同じ。先に点を取ら年目への誓いを込めてか、自主トレ中に名門ヤンキースの〝エース〟としての自覚を尋ねると、「(エースという)思いは強く持っていこうと思う。今までよりバリバリ意識して」と田中将大投手は直球を投げ返してきた。どんなに厳しい質問にも言葉を濁したりはしない。しかし、自分の立場をここまではっきりと言及するのは極めて珍しいと感じた。 「1年目、2年目は慣れない部分も多かったので、環境や場面にどれだけアジャストできるかを考えながらバッターと勝負していかなければいけなかった」日本のプロ野球とアメリカのメジャーリーグはあまりに異なる。ボールの大きさやマウンドの硬さなどは、実際にプレーする者にしかわからない。アメリカ本土は広いため、4つの標準時間に分かれていて、西海岸と東海岸では3時間の時差がある。おまけにメジャーでは試合終了後に遠征先に移動するのが通例だ。アメリカ屈指の人気球団・ヤンキースの場合、敵地でも観客動員が見込めるため3連戦の最終日もナイトゲームが組まれるケースが多い。昨年6月4日、田中自身がツイッターでも《これからニューヨークに帰ります ューヨーク自宅に到着するのは午前2時か3時かなぁ〜》とつぶやいているとおり、登板後の疲労回復さえ容易なことではない。しかも、登板間隔は日本が中6日、メジャーは中5日、もしくは中4日が一般的。それを1シーズン通すと大きな違いになってくる。ベストコンディションでマウンドに上がる試合はほぼないという。そんな慣れないメジャーで2シーズンを過ごし、   3       シアトル⇨ニ……。やっぱり投げないと。マウンドに立れてしまうと、ああいう展開になってしまう」エースはマウンドに立てば、常に結果を求められる。マウンド上では孤独と重圧を味わいながら、闘争心と冷静さを同時に発揮し、チームを勝利に導かなければならない。 「振り返るとメジャー1年目、2年目はそういう気持ちが薄かったと思う。だから今年は、あえてそういう発言をしている。本当にシーズンをフルで戦い抜いて、なおかつ結果を残せているピッチャーはほんの一握り。そこに自分が割って入っていくために強い自覚を持っていく」名門ヤンキースの中心選手として、誰よりも勝利への執念を持ってマウンドに上がる。そして先発ローテーションを守り、周囲の期待に応える結果を残す。こだわっているのは肩書ではなく、自身のグラブの内に刺繡されたのと同じ〝氣持ち〟だ。日本での最終シーズンに24勝0敗の偉業を成し遂げた。日本シリーズ第6戦で160球を投げ抜き、翌日の第7戦、まさかのリリーフ志願。最後の打者を三振に仕留め、東北楽天ゴールデンイーグルスを初の栄冠に導いた無敗のエース――田中将大。 「奪還」。名門ヤンキースは王者の誇りを取り戻せるのか。ひとつの鍵は田中が「エース」から〝絶対エース〟へとその実力を全米に知らしめることだ。メジャー3年目のシーズン。日本時代のエースナンバー「18」からもう一つ大きなピッチャーになるべく選んだヤンキースの「19」。田中投手の追い求める「あとひとつ」に今シーズンも目が離せない。人63たなか まさひろ|1988年、兵庫県伊丹市生まれ。駒大苫小牧高校時代の甲子園で数々の伝説を残し、2007年、東北楽天ゴールデンイーグルスにドラフト1位で入団。楽天のエースとして、最多勝利投手、最優秀防御率、最優秀投手に選出(2011年、13年)されるなど輝かしい記録を残す。連続勝利のギネス世界記録保持者。14年、米国MLBのニューヨーク・ヤンキースと契約。5月には日米レギュラーシーズンでの連勝を34に伸ばし、リーグ月間最優秀投手に選出。続く6月にはメジャー記録に並ぶ、デビューからの開幕16試合連続で「クオリティ・スタート」を達成するなど、名実ともに日米プロ野球のトップ投手となった。SignatureInterviewMasahiro TANAKA12自分は自分の仕事をするだけ。周りに認められ、1年間戦い抜く。肩書がなくても仕事ができる人間になりたい

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