SIGNATURE2016年06月号
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̶̶あの旅は何であったのだろう……。̶̶私は、あの地で何を見たのだろうか。伊勢神宮を訪ねて一ヶ月が過ぎた。深夜、仕事をしていて、時折、あの森の中で仰ぎ見た木洩れ日の差す緑がかった空や、木々の間から見た五十鈴川の川面の光、せせらぎを思い浮かべることがあり、そう自分に問うことが何度かあった。そんな折、伊勢の旅を案内してくれたカメラマンのMさんと東京のデパートでトークショーをした。Mさんが監督したドキュメント映画『うみやまあひだ』という作品がそのデパートの劇場で上映され、上映の後でMさんと話をするイベントだった。その準備のために、一年前に観たその作品を見返した。見返してみると、一年前には気付かなかったものがいくつかあり、このカットにはMさんや脚本家の、こういう意図があったのか、と思ったり、二百年育てた木の下に立つ人が話をしていた午後はあんな空だったのか、と作品の中にある偶然とも、必然だとも思えるものに気付かされた。Mさんはもう十二年、伊勢神宮へ通っている。4 「行く度に新しいものと出逢うんですよ」Mさんの言葉にうなずきながら、少し羨ましく思った。第九十三回伊勢、仙台Text by Shizuka IjuinIllustrations by Keisuke Nagatomo
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