SIGNATURE2016年06月号
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もやかんがアンダマン海に訪れる夕暮れは、いかにも幻想的だ。南国独特の靄が海から立ち上り、オレンジともピンクとも言えぬ色合いで、刻々と空を染める。これがプーケットで唯一、プライベートビーチのあるホテルから眺める景色。2004年に『トリサラ』がオープンするまで、この辺りはただ樹木が生い茂るだけの、放置された景勝地だった。太陽を求めるリゾート客には、南端の場所こそがふさわしいというごく自然な固定観念のためだったのかもしれない。楽園ではあったけれど、リゾートがひしめき合う喧噪もまた、プーケットという場所の特徴だったのだ。けれど、『トリサラ』が目指したのは、南国の開放的な気候を享受しながらも、静けさと空間を確保した大人のリゾート。なだらかな山の斜面に、樹木をそのまま活かしたヴィラが48室。全戸に広々としたプライベートプールが備えられ、ひとたび部屋に籠もれば、隣人の気配すら感じることがない。たとえリゾートであっても、都会の 景色を愛でる――そのシンプルな贅利便性を持ち込むのが贅沢だと思われていた時代に、それは画期的な展開だったともいえるだろう。けれど、2016年度『コンデナスト・トラベラー』誌のゴールドリストに選ばれたことなどをはじめ、数々のメディアからベストリゾートの称号を授与された結果を鑑みたなら、『トリサラ』こそが、真に人々の期待する楽園を実現し得たのではないだろうか。写真・栗林成城 文・小野綾子右上:原則、プーケットにプライベートビーチは存在しないが、背後を山に囲まれた立地から、ビーチはゲストだけが独占することになる。左:ハーブ、野菜類は、昨年から育て始めたという独自の農園から摘みたてのものを使用。オーシャンフロントがメインダイニング。Special Featute34Hotels with a View _01Photographs by Shigeki Kuribayashi Text by Ayako Onoここは、天国に続く庭園。海を眺めて暮れる休日があるトリサラTRISARA景色を堪能するのに最高のシチュエーションがあるとするならば、それは間違いなく時間と場所を独り占めすることだろう。『トリサラ』は、その贅沢を約束する場所である。
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