SIGNATURE2016年06月号
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ブダペストが大きな発展を遂げたのは、1867年にオーストリア=ハンガリー二重帝国が誕生してからのこと。ドナウ川を挟んだ西側のブダとオーブダ、さらに東側のペストが合併し、ヨーロッパで一、二と呼ばれる美しい都が建造されていった。市の中心には豪華なオペラハウスや美術館が立ち並び、壮麗な目抜き通りには紳士・淑女が闊歩した。さらにドナウ河畔には世界一美しいと言われる国会議事堂が完成し、 セーチェーニ鎖橋やブダ城とともに眩いほどの絶景を生み出していった。そしてこの風景を誰よりも愛したのが、この二重帝国の皇后として迎えられたハプスブルク家の公女・エリザベートであった。若くして王妃となった絶世の美女は、華やかな立場にありながらも波乱に満ちた人生を歩んだ悲劇の人物だ。本国オーストリアでは堅苦しい宮廷生活に馴染めなかった彼女も、自由闊達な空気に包まれるブダペストでは心穏やかな時を過ごしたという。現在、ブダペストを訪れる旅人にとって最高の贅沢とは、かつて王妃が愛したこの絶景を手に入れ、心ゆくまで味わうことだ。夕日に染まるドナウ川や鎖橋の輝き、日没後に煌めく王宮の佇まい。そんな絵葉書のような光景を存分に楽しめるのが『フォーシーズンズホテルグレシャムパレスブダペスト』だ。ドナウ河畔、鎖橋の正面に立ち、窓を開ければ息を飲むようなパノラマが広がっている。1904年に建てられた館は宮殿のような風情で、ハンガ     きらリー風のアールヌーヴォー建築が実に美しい。ロンドンに本社を置いたグレシャム生命保険会社が建てたもので、今では一帯の建築群とともに世界遺産の一部として登録されている。館内に足を踏み入れると高い吹き抜けの空間にクリスタル製の巨大なシャンデリアとモザイクのフロアが広がっている。錬鉄製のエレベーターや豪華なステンドグラス、ファサードを飾る石像など、パレスと呼ぶにふさわしい威風堂々の佇まいに圧倒される。徹底した改築工事の後、フォーシーズンズがホテルとしてオープンしたのは2004年のことだ。以来、世界中から訪れる旅人たちにこよなく愛されてきた。客室から望む絶景を堪能した後には、ぜひ鎖橋の対岸からの光景も味わってほしい(右頁写真)。ブダの丘の中腹からは、鎖橋の先にホテルが展望でき、さらに奥にはブダペスト最大の教会、聖イシュトヴァーン大聖堂が浮かんで見える。川を挟んだ2つの絶景。宝石をちりばめたような光景にきっと心が躍るはずだ。Hotel Information右ページ:鎖橋の奥に立つのがホテル。背後には聖イシュトヴァーン大聖堂が並ぶ。上:客室から望む圧巻の風景。ドナウ川の背後にはブダの丘が続く。下右・左:スイートルームの様子。落ち着いた佇まいに風格が漂う。下中:ホテルの外観。パレスという名にふさわしい堂々とした造り。49写真と文:田中克佳Photographs & Text by Katsuyoshi Tanakaフォーシーズンズホテル グレシャム パレス ブダペスト1051 Budapest, Széchenyi István tér 5-6, HungaryTel: +36(1)268 6000http://www.fourseasons.com/budapest/

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