SIGNATURE2016年07月号
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「団七九郎兵衛・夏祭意氣地ノ江戸ッ子 一寸徳兵衛」三代豊國(歌川国貞)画 1858年、守田座 国立国会図書館デジタルコレクションなつまつりなにわかがみ現在の大阪の夜景 写真・東直子 ©木ノ下歌舞伎歌舞伎名場面 第3回歌舞伎座 貸切公演のお知らせダイナースクラブでは11月3日(木・祝)、歌舞伎座にて「八代目中村芝翫襲名披露 吉例顔見世大歌舞伎」の文・川添史子 『夏祭浪花鑑』の演出を幾度も手掛けた串田和美に、「映画『黒いオルフェ』のイメージを重ねた」と聞いたことがある。油照りの暑さが焼けるような“大坂”の夏、高津神社の祭礼を背景に、浪花の男たちを描く『夏祭浪花鑑』。カーニバルの強烈な色彩とサンバのリズム、ムラート(混血児)たちの褐色の肌をとらえた『黒いオルフェ』……。なるほど、どちらも、むせかえるような祭りの熱狂に、白昼夢のような殺人が描かれる。 『夏祭浪花鑑』の主人公・団七九郎兵衛をはじめ、一寸徳兵衛、釣船の三婦らはいずれも大坂の侠客。社会的な目から見ると“ならず者”だが、彼らが随所で見せる意気地の達引きが、この大坂生まれの芝居を貫く美意識だろう。一生懸命つっぱって生きる男たち。 女たちも、男に負けぬ意気地を見せる。火鉢にかけてある鉄弓を顔に押しあてるような鉄火ぶりを見せる徳兵衛女房お辰は、「こちの人の好くのはここじゃない、ここでござんす」とカラリと胸を叩くよこうづいっすんとくべえたてひてっきゅうさ ぶ貸切公演(夜の部)を行います。詳しくはクラブハウス82ページをご覧ください。うな侠気の女。 団七が、心ならずも舅の義平次を殺害するはめになる「長町裏の殺し場(泥場)」は、有名な場面だ。団七が恩人を守るためについた嘘がばれ、怒り狂う義平次が、罵詈雑言を浴びせかけながら雪駄で団七の眉間を割る。されるがままにしていた団七の表情に「男の面を……」と瞬間、メラと殺意がめばえ、狂ったように叫ぶ老父をはずみで一太刀。「人殺し!」と叫びながら醜く逃げ回る義平次を相手に、着物がはだけて真っ赤な下帯姿、白い身体中に入ったくりからもんもんを、泥と血に汚しながら、団七は次から次に美しく立ち廻って見得を切り、とどめを刺す。 この陰惨な殺しが展開している間は、せりふは何もなく、ただ板塀の外を祭りの灯入りのだんじりが通り過ぎ、「ちょうさや、ちょうさや、ようやさ、ようやさ」の賑やかで陽気な祭り囃子の音だけが、殺しの伴奏となる。「悪い人でも舅は親、許してくだんせ」という団七の一言が、この男を残酷な殺人者から救い、哀れさ、人生の苦さを一層、引き立てる。江戸っ子の侠客とはまた違う、大坂ならではの情と匂いをまとったアウトローの生き様だろう。17ColumnSignatureText by Fumiko KAWAZOE1“Kabuki”a sense of beauty初夏の風物詩。ラテンな“大坂”の「夏祭浪花鑑」
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