SIGNATURE2016年07月号
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いスタイルで注文を受けてから作るので、口うるさいローカルも舌を巻く美味しさに、昼時ともなると行列が絶えない。「シンプルな美味しさを一番よい状態で食べてほしい」という日本人らしい謙虚な姿勢が、多くのファンの心をつかんでいるようだ。ハワイでは、池に錦鯉が泳いでいる光景をよく見かけるが、これも日系人の憧れる日本らしい趣味を、大切に受け継いできた証しと言える。ショッピングセンターやホテルの池に泳ぐ立派な鯉を育てているのは、オアフ島中央部のミリラニで『コダマ・コイ・ファーム』を営むコダマさんファミリー。ハワイだけでなく、全米の鯉愛好家の需要に応えるため、これまで新潟県・山古志村(現・長岡市)や小千谷のブリーダーが育てた鯉を販売していた経験を生かし、ハワイに広大な養殖場を完成させた。日本から稚魚の状態でハワイへ運び、品評会クラスの鯉に育て上げると共に、ホテルへの寄付や愛好家の教育にも貢献、日本の美を伝えている。今では当たり前のようになった、農家とレストランの連携という動きは、前ページで紹介した『ロイズ・ハワイカイ』のシェフ、ロイ山口氏が大きく推進したと言われている。そして、そのもう一翼を担っているのが、ディーン・オキモト氏の『ナロ・ファーム』だ。それまでのハワイでは、どんな高級レストランでも、ほとんどの食材を州外から調達していた。また当時は農園の数も少なく、特に高品質の葉野菜などを安定提供できる状態ではなかったのだ。シェフの意向に沿って野菜を育て、レストランのメニューに農園の名前がブランドとして記載されるまでになったことで、ハワイ全体の食材の品質が大きく向上することとなったのは、『ナロ・ファーム』のブランド力に負うところが大きい。オアフ島東海岸にあるワイマナロ地区は、緑のコオラウ山脈に守られた肥沃な土壌で植物がよく育つ。日系2世米兵として太平洋戦争を戦い、退役後にこの地で農場を始めたオキモト氏の父親は、大根や葉物野菜などを育てながら懸命に働き、子供たちの学費を工面してくれたそう。「父はあまり多くを語りませんでしたが、どんな時も日本人としてのプライドを忘れず行動しなさいと、いつも言っていました」。そう話す日系3世のオキモト氏と1世の山口氏、また、次世代の若きシェフ、コリン・ハザマ氏との交流は、ハワイの食事情という面だけでなく、日系人社会の繋がりの深さや、日本人としての心のあり方までが垣間見え、牧野金 三郎の足跡を辿って様々な人に出会えた今、とても温かいものを感じさせてくれる。牧野が自らの使命として守り残した日系人社会の礎。ハワイの至る所でそれに感謝する機会を見つけることができ、彼を知る者もそうでない者にとっても、牧野の足跡が己の立ち位置を知る道標になっていることは明白である。左:錦鯉の健康状態や水質管理など、1日に4〜5回餌やりをしながら細かくチェックする社長のタロウ・コダマ氏。下:広大な敷地には、大きさや色模様別の池で元気に泳ぐ鯉がたくさん。住所:P.O. Box 893086, Mililani HI Tel:(808)354-7031営業時間:8:00〜15:00定休日:土・日曜日本の伝統美が息づく錦鯉をハワイから世界へコダマ・コイ・ファーム40
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