SIGNATURE2016年07月号
42/88

住まいのあったクリオウオウからダウンタウンの事務所まで車で通っていた牧野は、1927年に開館したこの美術館を通勤途中に眺めていたかもしれない。ボストンから来た裕福な宣教師一家が建てた瀟洒な美術館を、彼はどう思っただろうか。というのも、プランテーションで働く日本人移民のために尽力した彼が闘った相手は、そんなアメリカ人が事業で成功した資本家側だったからだ。彼から見れば対極にあった存在かもしれないが、現在のハワイを享受できる我々にとって、この美術館の価値は非常に高い。物理的にはいわゆる芸術から遠く離れたハワイだが、多国籍の人々が住み、それぞれの文化を共有できる環境で、万人が楽しめる美術館を造るべきと、創設者アナ・ライス・クックが自らのコレクション、約4500点を寄贈して始まったホノルル美術館。現在はその収蔵品数が優に5万点を超え、アメリカの数ある美術館の中でも、日本を含むアジアコレクションの充実ぶりは必見と言われている。また特にジェイムズ・ミッチェナーが寄贈した1万点におよぶ浮世絵のコレクションは、日本国外で見られるものとしてはトップクラス、専門家の評価も高い。いくつも配された中庭を囲むように回廊式に建てられた建築も含めて、そこかしこに飾られた彫刻やオブジェなどをゆっくり見ながら、静かな時間を過ごせるに違いない。牧野が生きた時代、オアフ島の平地44右上:現代建築やモザイク壁画などもアートの一部。左上:いくつもある中庭にはユニークな彫刻も。右下:ダウンタウンにほど近いベレタニア通り沿いにあり、大邸宅のような構え。住所:900 South Beretania Street,Honolulu, HITel:(808)532-8700開館時間:火〜土曜10:00〜16:30、日曜13:00〜17:00閉館日:月曜日入館料:$10(17歳以下無料)    収蔵作品5万点以上を誇る、太平洋地域屈指の美術館ホノルル美術館

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る