SIGNATURE2016年08_09月号
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かつら名は周囲の助けを借りて、とにかく前を向いて走らないといけないですから。立ち止まらず、困難もプラスに変える能力が必要なんだ……と日々痛感襲  しています」襲名を目前にした心境を、こう率直に話す橋之助。取材の途中、「もううれしくて!」と興奮しながら見せてくれたのは、携帯で撮影した鬘の写真だ。襲名興行で使う鬘が仕上がり、そこに書かれた「芝翫」の文字に、いよいよ、その日が迫っている実感が湧いたという。清々しい口調には、襲名によって次のステージへ挑む心意気もにじむ。 「これまで(中村)勘三郎の兄、うちの兄(中村福助)など、身近な人が襲名で大きくなっていくのを、同じ舞台の上で見てきました。特に幼いころからずっと相手役を務めてきた兄の時は、その変化を目の当たりにしたんですよね。襲名の2か月後に共演した時、身体が一回り大きく見えるようなオーラを発していて、名位が付くとはこういうことだと体感したんです。自分もワンランク、ツーランク上がるように精進しないといけません」父・七代目芝翫から生前、「名を継いでほしい」と言われていたそうで、息子としては襲名を前にさまざまな思いが去来する。先代は5年前、83歳で亡くなるまで、気品ある舞台姿を見せていた。その偉大な背中は、息子の記憶の中でますます大きくなっているようだ。 「父は予言者みたいなところがあって、歌舞伎座が新開場する前に『新しい歌舞伎座になって1年目はお客様が入るだろう。でも3、4年経った時にこそ本腰を入れないなくらい身近な人が襲名で大きくなっていくのを、同じ舞台の上で見てきました。身体が一回り大きく見えるようなオーラ。それに向かって精進しないといけません

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