SIGNATURE2016年10月号
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  モリナガ・ヨウ『築地市場絵でみる魚市場の一日』(小峰書店)あとがきより抜粋夜中の11時くらいから朝の7時くらいまでの、魚市場がもっとも活気にあふれている時間帯。最初の取材のときの衝撃は今でも忘れられません。過去いろんな現場を見てきましたが、最大級のインパクトでした。大きな生き物の中に入り込んだ感じです。なにもかもが猛スピードで行き交っています。巨大な発泡スチロールの山、壮絶な量の文字情報、そこここで生きた魚があばれ、しめられている、過剰な混沌としか思えません。大股で歩いている引きしまった体と厳しい顔つきの男たちも、普段昼間の街で見かける人とは違っています。2013年の夏から14年の初夏まで季節をまたいで幾度も取材に行きました。半年も通うと歩幅とリズムをつかんで、移動速度だけは合わせられるようになった気がします。自分が部外の観察者であることに変わりはないのですが。明るくなるとふっと張りつめているものが「抜ける」のはおどろきです。日中のからっぽの市場は、試合が終わった体育館みたいで明け方までのそれとはほとんど別物でした。 写真:映画『築地ワンダーランド』より ©2016 松竹39

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