SIGNATURE2016年11月号
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島県福山市にある禅寺『天心山神勝寺』の敷地内にある「禅と庭のミュージアム」は、より多くの人に禅の世界観を体験してもらうべく構想された場所である。白隠の常設展示が見られる『莊嚴堂』、建築家・藤森照信による寺務所の『松堂』など、さまざまな視点で禅を感じることができる、まさに〝ミュージアム〟だ。ここに、9月11日、新たに誕生したのが、名和晃平|SANDWICHによる設計のアートパビリオン『洸庭』である。彫刻家として、国内外を問わず創作活動を展開している名和であるが、近年、住宅の設計やホテルのアートディレクションなど、建築領域での活躍も目覚ましい。 「彫刻とひと言でいっても、物体そのものとして完結しているものもあれば、空間全体が彫刻的な感覚で満たされているインスタレーションと呼ばれるようなものまでさまざま。僕自身はいわゆるオーソドックスな彫刻の概念に縛られたくなくて、体験をつくっている感覚が強いんです。結局、彫刻の表現を突き詰めていくと、建築や空間からつくりたいと思うようになりました」建築とアートの融合への必然性と可能性を大いに感じているときに舞い込んできたのが今回のプロジェクトだった。当初は既存の美術館をリノベーションするという話だったのだが、施主である神勝寺と話し合いを進めていくにつれ、現代建築とアートを融合させた新しい形のものをつくろうということになっていったという。建物の下に敷き詰めてあるのは、錆色の強い大量の砕石。そして道には小さな貝殻などが混ざった海砂が使われていしょうごんどう 広 アーティストがひとりでつくるのがアートという固定観念は前時代的。これからのアーティストには個を超えた普遍的な表現を追い求める使命がある――名和晃平SignatureInterview人67Kohei NAWA見開き:「洸庭」の設計・監理を手がけた「SANDWICH」の建築チーム。右から名和晃平、古代裕一、李仁孝。切り込み写真右から:「洸庭」の全景。前庭は、石と海砂を用い海原を模している。/サワラ材で葺かれた船底のような軒天井。/建築家・藤森照信が設計した松堂(寺務所)。屋根越しに多宝塔が望める。/左3点:白隠禅師の禅画・墨蹟など200点を超える作品群を、順次掛け替えて展示する日本唯一の常設展示館『莊嚴堂』。なわ こうへい|1975年生まれ。彫刻家、京都造形芸術大学大学院芸術研究科教授。2009年、京都に創作のためのプラットフォーム「SANDWICH」を立ち上げる。2011年、東京都現代美術館で個展「名和晃平̶シンセシス」を開催。独自の「PixCell」という概念を軸に、ビーズ、発泡ポリウレタン、シリコーンオイルなどさまざまな素材とテクノロジーを駆使し、彫刻の新たな可能性を拡げている。近年は建築、舞台のプロジェクトにも取り組み、空間とアートを同時に生み出すことに挑戦している。14神勝寺 禅と庭のミュージアム広島県福山市沼隈町大字上山南91拝観時間 9:00〜17:00(最終受付16:30)TEL: 084-988-1111 http://szmg.jp
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