SIGNATURE2016年11月号
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20はしもと まり/日本美術を主な領域とするエディター&ライター。 永青文庫副館長。著書『SHUNGART』(小学館)、『京都 で日本美術をみる【京都国立博物館】』 (集英社クリエイティブ)。 《泉のニンフ》に顕著なとおり、クラーナハは、ギリシャからイタリア・ルネサンスへとつながる8頭身ヌードとは異なる、北方的なおなかぽっこりスタイルの画家。とはいえ、本作は1499年にヴェネツィアで出版された《ポリフィロの夢》の挿絵を典拠にしているとも。会期:2016年10月15日(土)〜2017年1月15日(日)開館時間:9:30〜17:30、金曜は20:00まで(入館はいずれも閉館の30分前まで)休館日:月曜(ただし1月2日は開館)、12月28日(水)〜2017年1月1日(日)会場:国立西洋美術館(東京・上野公園)公式サイト www.tbs.co.jp/vienna2016/お問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)※本展は、2017年1月28日(土)〜4月16日(日)、国立国際美術館(大阪)に巡回《アンナ・ド・ノアイユの肖像》1926年 DIC川村記念美術館蔵(展覧会ポスターデザイン:川添英昭)ルカス・クラーナハ(父)《泉のニンフ》1537年以降、油彩/板、48.4×72.8㎝ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵 © Courtesy National Gallery of Art, Washington会期:2017年1月15日(日)まで開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)休館日:月曜(ただし1月9日は開館)、 会場:DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市坂戸631)公式サイト http://kawamura-museum.dic.co.jpお問い合わせ 0120-498-130(フリーダイヤル)、 1510年頃にジョルジョーネが描いた《眠れるヴィーナス》によって、横たわる裸婦像は大流行した。同時代のクラーナハは北方にあって、おそらくそれを知らずに描いているとされるが、レオナール・フジタの時代には、もはや「伝統」の画題だ。その肌の表現にこそ、フジタは懸けた。10月11日(火)、12月25日(日)〜2017年1月2日(月)、1月10日(火)043-498-2131《眠れる女》1931年 油彩、カンヴァス 74.4×125.0㎝(公財)平野政吉美術財団© Fondation Foujita /  ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo 2016 G0632ルカス・クラーナハ(父)《ホロフェルネスの首を 持つユディト》1530年頃、油彩/板(菩提樹)、87×56㎝ウィーン美術史美術館蔵 © KHM-Museumsverband.日本美術の冒険 第28回文・橋本麻里 申し合わせたわけでもあるまいに、この秋の首都圏は魅惑的な女性像の競演となっている。まず日本初となるクラーナハ展では、ザクセン選帝侯の下で宮廷画家として活動したクラーナハの作品が、世界10か国以上から集結する。クラーナハは盟友マルティン・ルターによって開始された宗教改革に深く関わる一方、アルプス以北のヨーロッパに裸体表現の発展をもたらしたという点でも特筆される画家。特に60代以降に繰り返し描いた、時に幼児的にすら見える華奢な裸体を、極薄のヴェールに包むことで、むしろエロティックさが強調された異教の女神や古代のヒロインたちは、独特の吸引力を放って観る者を誘惑する。その誘惑にとらわれるな、という教訓のためにこそ描かれた作品が、現代にいたるまで観る者を(おそらくは描く者も)、建前を超えて魅了し続ける、その秘密に迫る。 いま一人の画家、近代ヨーロッパでもっとも成功した日本人芸術家として知られるレオナール・フジタこと藤田嗣治も、女性像の美しさでつとに称揚されてきた。その特徴である「乳白色の下地」の備える独特の風合いは、藤田が長く憧れてきた「パリの象徴」ともいえる、モデルたちの肌の色を表現するために試行錯誤を重ねて完成した技法だ。下地をつくり、最後にタルク(滑石、ベビーパウダーの原料)を施すことで、半光沢の滑らかな質感が現れる。その上に墨で引かれる極細の輪郭線によって、女たちの姿がかたどられた。今展では、社交界の名士から家族、職業モデルまで、描かれた男女のモデルたちを切り口に、藤田が取り組んだ造形的な課題、そして周辺の人間関係を明らかにする。ColumnSignatureText by Mari HashimotoExhibition InformationExhibition Informationクラーナハ展̶500年後の誘惑レオナール・フジタとモデルたちArt2エコール・ド・パリのモデルと、ドイツ・ルネサンスの女性像

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