SIGNATURE2016年11月号
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̶̶そうか、この先は線路がないのだ……。鉄道の旅に根強い人気があるのは、さまざまな理由があるのだろうが、私は、あの車窓を流れる風景にあると思っている。それも、適度なスピードで走る電車に乗って、見ることができる〝流れる風景〟である。超特急の旅よりも、各駅停車の旅を好む旅人が多いのも、その理由だろう。いろんな路線を乗り継いで行く電車の旅も、それはそれで楽しいのだろうが、私が好きな電車の旅のひとつに、終着駅までの旅というのがある。二年前、青森の竜飛崎へ旅した折、これが終着駅ですと言われ、そこから先を見たら、駅のプラットホームの少しむこうに小屋のようなものが雪景色の中に見えた。と妙な感慨を抱いた。海外で、終着駅までよく乗ったのは、パリのサンラザール駅から、終着駅の、トゥルーヴィル・ドーヴィル駅までの電車だった。電車が駅に着くと、駅舎のむこうに線路は勿論なく、北の海が見える。フランス人にとって、南のコートダジュールの、ニース、カンヌ、モ6 ナコなどと並んで、北の避暑地として有名なドーヴィルの町である。フランス映画の『男と女』の撮影地もこの町である。Text by Shizuka IjuinIllustrations by Keisuke Nagatomo
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