SIGNATURE2016年11月号
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(1013年)に開かれた寺院である。(司祭者階級)が修めた五つの学問、五明揺ら響ぎく、―う―ね天る台豊声か明なの声根が本、道本場堂、に勝林院。ここは、唐で声明を学んだ円仁の9代目の弟子、寂源によって長和2年声明はもともと古代インドでバラモンの一つ。音韻学、言語学などを含む学問だったが、その後中国に伝わり、礼拝供養する儀式音楽として独立した。日本に伝来すると各宗派ごとに発展。なかでも大原魚山は天台宗僧侶・良忍によって大原流声明が創始されて栄え、のちに後白河法皇もその熱心な伝承者となった。 現在、天台宗には約100曲の声明曲が伝わり、若き僧侶は師につき日々の法要を通じ体得していくという。一人前の声明家になるには10年とも20年とも。仏教儀式のなかで唱えられるのが常の声明だが、近年は声明を中心とする「声明法要」も開かれる。住職の藤井宏全氏は「声明を聴聞し神秘を体感する時間は、ストレスの多い現代人にとっても意義があるのでは」と話す。音の完璧な調和を目指すグレゴリオ聖歌とは対照的に、声明では微妙な音のずれをも包みこみ、それが心地よい波長を放つのだ。勝林院は、法然と比叡山延暦寺の碩学による「大原問答」の地としても知られる。法然が他力念仏の功徳による極楽往生を説くと、本尊が大光明を放ったという伝説が残る。その神秘をたたえる静謐な空間に、仏への声のお供えが響く。耳を澄ませば、心身のこわばりは柔らかに解かれていくようだ。ごみょうせきがく勝林院邦楽の源流と言われる声明。経典に節をつけて唱える崇高な仏教音楽は大原で脈々と受け継がれてきた。山中に響く音律、天台声明の根本道場けこShorin-in TempleinformationSpecial FeatureOhara, KyotoThe Quiet Call of a Rustic Village36右上:薄く緋が入った本堂の欄間には、精緻な彫刻が施されている。右中:声明曲「散華」では、蓮の花びらをかたどった散華が曲の終わりに散らされる。右下:七間六間の本堂の大屋根はサワラの柿葺き、総欅造りで、安永7年(1778年)に再建されたもの。国の重要文化財。左上:散華を入れた華籠を手に声明を朗々と唱える住職・藤井宏全氏。左下:天台宗の主要な曲が収められた声明譜「魚山声明全集」。京都市左京区大原勝林院町187 電話:075-744-2409(宝泉院)拝観時間:9:00〜17:00(受付終了16:30)    

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