SIGNATURE2016年11月号
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洛中御所かからら大ち原ょへう向どか1う里鯖の街地道に沿佇いむ、『平八茶屋』。天正年間の創業以来430年余にわたり、旅人を迎えてきた老舗だ。小さな茶店は江戸時代には小浜城主の脇本陣として小鯛やぐじ(甘鯛)を供し、明治には川魚料理店に、昭和の終わりには再びぐじを取り入れた懐石料理を供するようになった。『拾遺都名所図会』にも描かれた名店は頼山陽、岩倉具視、夏目漱石と文人墨客が数多く訪れ、なかでも北大路魯山人は18代目当主と昵懇で、調理場にまで出入りしていたとか。そんな伝統の茶屋の名物は「麦飯とろろ」。つくね芋をすりおろし麦飯にかけて食する旅人のための滋養食である。「つくね芋は消化に優れ、すぐ力になる。昔の人はよく考えていたんですね」と21代目の園部晋吾氏。代々の主人がそれぞれよりよき味わいや食感を求め、工夫を凝らしてきた。当代は麦とほどよい食感を生む岡山産の朝日米を、だしには北海道・礼文島香深浜の利尻昆布と鹿児島・枕崎の本枯れ節を使う。「洛中では荒節が多いけれど、うちはカビ付けの本枯れ節。香りが強く山里の風趣に似合いますので」。丹念に磨りおろされた丹波産つくね芋を、香り高い出汁でのばし、隠し味には白味噌を。絹のように滑らかなとろろは、里の味わいと繊細な京の趣が融合した逸品である。すぐそばには鴨川の上流・高野川が流れ、川に張り出す楓が秋には見事に紅葉する。それを眼前にできる数寄屋造りの座敷で、里の情趣をしっとり味わいたい。しゅういみやこめいしょずえ山ばな平八茶屋430年余旅人の心身を癒してきた「麦飯とろろ」。山里の風趣に富む眺めとともに味わいたい。鯖街道の老舗でいただく、旅人を饗応した伝統の味京都市左京区山端川岸町8-1 電話:075-781-5008営業時間:11:30〜21:30(入店19:00まで) 昼11:30〜15:00(入店14:00まで)定休日:水曜 www.heihachi.co.jp/右上:麦飯にとろろ汁、取肴、焚き合わせ、和え物・酢の物など猪口3種、小吸物、香の物、水物がつく「麦めしとろろ膳」。右下:山口・萩から移築された「騎牛門」。萩城主の末裔が大阪の八木商店に嫁ぐ際に持参し、平八茶屋の南にあった別荘地に置いた門を、川端通拡張の際に平八茶屋が譲り受けた。左上:約600坪の敷地には大小の座敷が。昭和10年(1935年)築の棟からは高野川が望める。左下:つくね芋をおろす園部晋吾氏。  Yamabana HeihachijayainformationSpecial FeatureOhara, KyotoThe Quiet Call of a Rustic Village38

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