ふっくらサクッ。 乙な天バラ通い慣れた神楽坂も、久しぶりに訪れると変わったなぁ、という印象だ。風情ある大好きな石畳の小路にも商業ビルが建ち、景観は台無しだが、その中にあっても天婦羅の名店『天孝』は健在だ。まだ20歳代だった頃、怖いもの知らずに飛び込み、それ以降30年来のおつき合いだ。初代の新井孝一さんはそんな若者にもとても親切に、そしてていねいな仕事をしてくれた。猿楽町の名店『天政』の流れを汲んでいることを知ったのは、ずっと後のことだった。孝一さんの息子で2代目の新井均 さんが、『天婦羅あら井』を2016年8月にオープンさせた。場所はやはり神楽坂だ。「江戸料理の天婦羅をもっと若い人に知ってもらいたい。江戸の文化を残したい、という一心から始めました」と、均さんは語る。若い頃に欧州やアメリカで熱心に天婦羅の普及に努めた経験からも、若手の育成、あるいは伝統継承、そして天婦羅の世界発信ができればと考えているのかもしれない。なる空間は、ゆったりとして気持ちがいい。スタートの才巻海老はしっかりとした歯ごたえの中に甘みが凝縮しているし、それに続くタラバガニは料理長の大川心平さんの新作だ。大きな半生の身はとてもジューシー。夏場は牡蠣もあったようで、こんなところに料理人の自由な発想が見て取れる。江戸の伝統的なネタ、穴子は、羽田沖の小柴の筒漁で獲れたものにこだわる。底引き漁ではない、穴子にストレスがかからない方法で捕獲することで、身が硬直しない状態で仕込みまで行うことができ、その結果、ふんわりとした食感が保てるそうだ。熱々でさくさくの身は確かにふわっとして最高である。シメは、天茶、天丼、天バラより天バラを選ぶ。砕いたかき揚げ、才巻と芝海老の天婦羅を交ぜたご飯に、隠し味としてじゃこも加えた丼は、どこにもないこの店オリジナルだ。どれにしようか迷ったら、天バラを強くお薦めしたい。天丼や蕎麦などのアラカルトも楽しめる工夫をするそうだ。ワインの品ぞろえもよくて、とても期待できる店である。今後は遅い時間の来店で、小さな18住所:東京都新宿区神楽坂4-8 AGEビル地下1階電話:03-3269-1441営業時間:17:30〜25:00(月〜金曜、L.O.24:00)11:30〜22:00(土曜、L.O.21:30)定休日:日曜・祝日天婦羅 あら井夜のメニューは「天婦羅コース」8,500円、「上天婦羅コース」10,000円、「おまかせコース」12,000円、「季節の特選コース」16,000円。21時以降はアラカルトで、天婦羅や天丼、天バラご飯、蕎麦などが楽しめる。*価格はすべて税込。料理長12席のコの字型のカウンターからNumberPhotographs by Masahiro Okamura(Crossover) Text by Tomoyasu ShitayaShimpei Okawa今月の一皿大川心平116
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