SIGNATURE2017年01_02月号
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21ColumnSignatureText by Fumiko KAWAZOE国立劇場開場50周年記念 10月・11月・12月歌舞伎公演「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」特設サイト  www.ntj.jac.go.jp/50th/kabuki_chushingura/加古川本蔵=松本幸四郎(写真:渡辺文雄)仮名手本忠臣蔵 「大星由良之助=五代目澤村長十郎」「寺岡平右衛門=二代目市川九蔵」「大星力弥=三代目岩井粂三郎」嘉永2年(1849年) 三代目豊国(国貞)画 東京都立中央図書館特別文庫室所蔵大星由良之助=中村梅玉(提供=松竹株式会社)歌舞伎名場面 第8回文・川添史子 「師走といったら忠臣蔵」は、今やある世代以上の感覚だろうか。赤穂義士四十七士の墓があることで知られる泉岳寺の近くで育った筆者は、12月になるとそわそわ。歌舞伎・講談・浪曲……何かで観たい、聴きたいという気持ちが盛り上がる。 子どものころは、討ち入りの12月14日に境内で開催される「義士祭」は楽しみの一つだった。屋台から漂う香ばしい匂いと、この日は特別に呑ませてもらえる甘酒。浮き立つお祭りの中、たくさんのお線香の煙が上がる墓所を見ると、幼な心にも、どこかシンとした哀しい気持ちがこみ上げたものだ。 ご存じのとおり、「忠臣蔵」の発端は江戸城松の廊下の刃傷沙汰。切腹となった浅野内匠頭の旧臣たちが主君の仇を討つべく、仇敵・吉良上野介の屋敷に討ち入った実在の事件だ。舞台や人物名などたくみのかみを『太平記』の世界に移したのが歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』となる。タイトルの「仮名手本=いろは四十七文字」は「赤穂四十七士」になぞらえたもの。 全段が名場面の連続だが、今回はやはり壮大なドラマの締めくくり、十一段目の「討ち入り」を取り上げたい。由良之助たちがついに高師直の館に討ち入り。雪降る中での手に汗握る大立ち廻りの末に、炭小屋に隠れていた師直を討ち取り本懐を遂げる。勝鬨を上げる場面で拍手喝采、そして幕。 国立劇場では10月から3か月連続こうのもろなおかちどきで全段完全通し上演中だが、12月がついにフィナーレ。十一段目の最後には判官の墓所のある光明寺(泉岳寺)へ向かう「花水橋引揚」も上演されるというから、ぜひ観ておきたいところ。 ふと『仮名手本忠臣蔵』が愛され続ける理由を考える。〈仇討ち〉における義理や忠義は現代人には分かりにくい。運命に翻弄される家族、別れゆく親子、引き裂かれた恋人たち。やはり普遍的なテーマを織り込んだ悲劇と美しい季節の移ろい、絵巻物さながらの大河ドラマに心がふるえる。 先日、浪士の墓所を訪れたら、大石主税(役名は大星力弥)の墓前に菓子が供えてあった。16歳で命を散らした少年を悼む人が置いたのだろう。酒好きで喧嘩っ早い男に描かれる堀部弥兵衛(安兵衛)は日本酒。物語が愛されている証拠のようで、微笑ましい。おおいしちから“Kabuki”a sense of beauty1日本人の心性を揺り動かす「討ち入り」のフィクション。30年ぶりとなる『仮名手本忠臣蔵』全段完全通し上演

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