SIGNATURE2017年01_02月号
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いっとき中国の南、インドの東にあるインドシナ半島は、1887年から1954年まで「フランス領インドシナ」と呼ばれていた。一時だけ大日本帝国によって占領されたものの、80年もの間、フランスの支配下にあり、フランス式の近代化・西洋化が進められた土地である。なかでも、フランス人たちの最初の拠点として、どの街よりフランス化され、商業の中心として栄えた都市がサイゴン(現・ホーチミンシティ)だった。サイゴンの都市計画が始まった頃のフランスは、近代建築の分野で世界を牽引していた時期だ。鉄やコンクリートを使用した新しい技術が開発され、新しい建築的表現が次々に開花していた時代と重なる。サイゴンという地は、こうしたフランス建築の趨勢を受け、フランス人技術者や建築家たちによって、本国フランスの文化力を見せるためのショーケースとして、整備されていく。そのサイゴンの大開発に大きく寄与したひとりが、あのギュスターヴ・エッフェルである。〝鉄の魔術師〟ことエッフェルは、フランスの植民地のインフラ計画に引っ張りだこだったようだ。彼は、「コーチシナ(ベトナム南部)の総督から直々に相談を受け、縦横に運河が走っているサイゴンのために、コストも時間も節約できるセミオーダー式の橋を考えた。熟練工でなくても容易に組み立てと解体ができる、限られたいくつかの伝統を重んじるハノイに対し、ホーチミンシティ(旧・サイゴン)は開放的。新しいもの好きで、自由で、エクレクティック(折衷主義)。異文化と混淆することによって独自の文化を築き上げてきたこの街の歴史を辿ってみよう。32シンプルなデザインのモン橋は、全長128メートル、1882年創設。脇に付与された街灯も当時のもの。G.エッフェルによる設計。背後には、国花である蓮をイメージしたビテクスコ・フィナンシャル・タワーやサイゴン・ワンなどの摩天楼が聳える。右と左ページ上2点:インドシナ政府が発注したこの郵便局は、1886年工事着工、 1891年竣工。建築家は、オーギュスト・アンリ・ヴィルデューとその弟子たち(エッフェルは設計しておらず、技術面のみ協力)。パリのオルセー駅に内観が似ている。   Special FeatureCau MongPhung 12 Distrit 4,HCMCBuu dien trung tam Sai Gon2 Cong xa Paris, Ben Nghe Ward, District 1,HCMCPhong cach Sai GonChu,o,ng 1フ都ラ市ン計ス画によるモン橋サイゴン中央郵便局

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