とって心躍るひと時だ。リベラ・デル・ドゥエロで美酒に酔いしれた後は、ミシュランの3つ星を冠する店を4軒も擁する美食の聖地、バスク地方へ。特に新バスク料理の旗手で、スペイン最年少で3つ星を獲得したエネコ・アチャ氏率いる『アスルメンディ』は、最も注目されるレストランだ。店内に一歩足を踏み入れると、瑞々しいシダや樹々が鬱蒼と生い茂る室内庭園に目を奪われる。食前酒としてサーブされるチャコリと共に供されるピクニックバスケットに入ったアミューズの粋なプレゼンテーション。さらに次の温室のような部屋には丹精な箱庭のごときディスプレイが配され、分子料理を駆使した宝石のような料理の数々が仕掛けられている。その驚きと遊び心にあふれる演出に、世界のガストロノミー界に新風を吹き込んだアチャ氏の卓越した才覚を感じないわけにはいかない。その後は約10皿のデギュスタシオン・メニューを田崎氏自らが選んだワインで堪能。世界のソムリエと若手3つ星シェフの一夜限りの饗宴は、深く心に刻まれる至極の経験となった。上:片手で、かつ一口で食べられるスナックとして生まれたピンチョスが並ぶバル。中上:大人気のイベリコベジョータ。中下:高級珍味である亀の手。下:「亀の手のミネラル感と海の塩っぽさが、チャコリととても合いますね」と、そのペアリングに太鼓判を押す田崎氏。51美食で有名なバスク地方でとりわけ世界のグルメたちに愛されているのが、サン・セバスチャンだ。その旧市街は、世界で最も路面飲食店が密集しているエリアと言われ、地元の人や観光客たちが夜な夜な繰り出し、ピンチョスをつまみながらバル巡りを楽しむ。旅の途中の一夜、バルで田崎氏がチョイスしたのがバスク地方の地酒、チャコリだ。チャコリはもともと各家庭で造るカジュアルな微発泡の白ワインで、その約65%がバスクで飲まれ、マドリードで約10%、残りはヨーロッパや北米に輸出されるため、日本ではなかなかお目にかかれない酒だ。エスカンシアドールと呼ばれる、高い位置から注いで泡立ちをよくし、香りを開かせる独特の注ぎ方で有名だ。左:『アスルメンディ』のクリエイティビティを象徴する、バスケットに入ったアミューズ3種。地酒チャコリが入った緑のボンボン(手前)はひときわキュート。 右:タカアシガニとウニのエマルションは、ウニとトマトの冷製スープと共に。爽やかな酸味をもつトマトスープにウニのまろやかさが感じられる繊細な味わいが魅力。左:自家農園の卵黄にトリュフを注入した店のスペシャリティ。 香り高いトリュフとまろみのある卵黄のハーモニーが美味。 中: 室内庭園では、併設するワイナリーで造られるチャコリが、写真上左のバスケット内のアミューズと共に供される。 右:スペインの地品種ヴェルデホを使った『ルエダ』のホセパリエンテ 2014年。 アスルメンディcolumnチャコリを片手にバル巡り。サン・セバスチャンの夜「玄関から食卓にまで用意されるウィットに富んだ仕掛けは、驚きの連続です」AZURMENDI
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