とげつろう 北川村から高知の市街地へ戻った。高知名物の皿鉢料理を予約していた『得月楼』へ向かう。創業は明治時代の初期だから龍馬はこの店には訪れていないが、この大楼を開いた松岡寅八は、龍馬の生家にほど近い町の、魚を商う店に生まれている。龍馬は寅八より15歳年上。ひょっとすると互いの間には何らかの面識もあったのではないか。それを示す資料は残されていないが、そんなエピソードを思い浮かべるのも、歴史探訪の楽しみではある。 『得月楼』は当初、『陽暉楼』の名で開業した。宮尾登美子の同名小説の舞台になったことでも広く知られるあの料亭だ。地元はもとより、遠路はるばる文人墨客が集い、連日、不夜城の様相さわちであったと伝えられる。皿鉢料理は土佐のハレの食ではあったが、「剛健質素」の藩是から、たびたび色彩豊かな皿(皿鉢)そのものの使用や売買が禁じられ、庶民はそこに豪快に盛られる料理とも縁遠くなる。文明開化を迎えて、晴れて堂々と皿鉢料理を供し、食する機会を得たという次第。 大皿には各種の刺身や、高知の食の代名詞「鰹のたたき」をはじめ、「組み物」と呼ばれる煮物や練り物に加え、鯖寿司なども載っている。ちなみに龍馬は脱藩以前、鯖寿司を好物にしていたと聞く。夢想妄想の領分ではあるけれど、明治の世にこの店で皿鉢料理をつつきながら、龍馬と一献酌み交わしてみたかったな。 『得月楼』の皿鉢料理は、 高知の粋と豪胆さの象徴 31江戸時代の土佐藩では禁じられていた奢侈な料亭なども、明治に入って解禁となり、毎夜三味線の音が鳴り響く一角も生まれていった。『得月楼』(旧『陽暉楼』)はとりわけ斬新な企画を次々と催し、好評を博した。代を重ねて育て上げてきた盆梅300鉢余りが美しく咲き競う時季(毎年1月中旬から3月上旬頃)は圧巻の景色。花を観賞し、料理の華に舌鼓を打つ。得月楼高知市南はりまや町1-17-3 電話088-882-010111:00~14:00/17:00~22:00 年末年始・不定休
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