CSignatureかすがいばこうはんいなご組み合わせてひとつの世界観を現出させるソフトとが一体となった、恐るべき総合芸術なのだ。 それまでの日本において、貴族たちなら和歌、続く禅僧たちであれば漢詩文というように、教養の核心は常に文芸にあった。ところが茶の湯──ことに、わび茶の完成以降、美術史家の島尾新が言うところの「文学から美術への、文字からモノへのシフト」(『「和漢のさかいをまぎらかす」茶の湯の理念と日本文化』淡交新書)が起こる。だからこの春の展覧会では、モノ=茶道具が語る茶人の美意識や時代の感性に、耳を澄ませてほしい。 道具類があまりに多彩で混乱しそう、というなら、まずは取りつきやすい茶碗だけを重点的に見るのもひとつの手だ。中国文化への憧れから蒐集された唐物の茶碗が示す、歪みも傷もない完全なるものへの志向。唐物道具が応仁の乱で灰燼に帰した後、強力なテーマやコンセプトを設定し、道具を介して人間同士の深いコミュニケーションへ至ろうとした、わび茶の決定打としての樂茶碗。そして千利休によって統一された美意識が、再び多様化する江戸時代以降──と、その変遷を見ていくことで、「ワビ・サビ」だけではとうてい語り尽くせない、茶の湯の世界の広さと深さを俯瞰することができる。olumnText by Mari Hashimoto日本美術の冒険 第32回文・橋本麻里 東京国立博物館で37年ぶりに茶道具の名品を展示する特別展「茶の湯」、同時期に東京国立近代美術館へ巡回する企画展「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」を間近に控え、このところ会う人ごとに、「春の東京は茶の湯祭りですから」と言って回るエヴァンジェリスト(伝道者)と化している。安土桃山時代に織田信長、豊臣秀吉ら天下人が血道を上げ、明治以降には一代で財を成した新興の実業家たちが、財力とセンスを競って道具を集めて茶事を催した茶の湯も、現代では女性向けのオールドファッションなお稽古ごと、と見られがち。だが実際のところ、茶の湯は文芸から書、絵画、陶磁、建築、庭園にまでいたるハードと、それらを自在に21特別展「茶の湯」会期 : 2017年4月11日(火)~6月4日(日)会場 : 東京国立博物館 平成館(上野公園)開館時間 : 9:30~17:00※特定日に時間延長あり※入館はいずれも閉館の30分前まで休館日 : 月曜(ただし5月1日は開館)お問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)公式ウェブサイト http://chanoyu2017.jp/はしもと まり/日本美術を主な領域とするエディター&ライター。 永青文庫副館長。著書に『SHUNGART』(小学館)、『京都で日本美術をみる【京都国立博物館】』(集英社クリエイティブ)足利将軍家の唐物コレクションは、その後の日本の美の規範を形づくった重要なメルクマール。コレクションのひとつとされる南宋時代の青磁茶碗が「馬蝗絆」。ある時この茶碗がひび割れを生じたため、足利義政が中国(明)に代わりの品を求めたところ、もはや同質の品は現地にもなく、鎹で繕ったものが返送されてきた。この小さな鎹を蝗に見立て、傷ではなく「見どころ」に逆転してしまったのがミソ。青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆中国・龍泉窯 南宋時代・12~13世紀 東京国立博物館蔵2Art茶の湯 名碗オールスターズ
元のページ ../index.html#17