世紀後半、ザクセン選帝侯の宮廷所在地として栄えたドレスデンは、アウグスト強王(1670〜1733年)の時代に、その最盛期を迎える。王は経済・産業の振興を図るとともに、バロック様式の都市建設や文化芸術の発展に力を注いだ。 ゲーテはワイマールに落ち着いてからも、洗練を極めたドレスデンを気に入り、しばしば訪れていた。特にエルベ川河畔に延びる約1キロメートルのプロムナード「ブリュールのテラス」から眺める景観の美しさを「ヨーロッパのバルコニー」と称賛し、散策を楽しんだという。遊歩道の周辺には、ゲーテもたびたび訪れたというフラウエン教会やツィンガー宮殿内のアルテ・マイスター絵画館、ドレスデン城、ザクセン州立歌劇場など、かつての栄華を今に物語るドレスデンの代表的な見どころが集まっている。エルベ川を航行する外輪蒸気船から眺める、それらバロックの街並みは、現代においてもその華やかさが衰えることはない。 中世の建物がそっくり残っているかのような、歴史を感じさせるドレスデンの街並みだが、第2次世界大戦末期には、4度におよぶ空襲により街の85パーセントが破壊され、歴史的建造物の多くが瓦礫の山と化した。それらの再建計画が推進されたのは、1990年の東西ドイツ統合後。なかでもフラウエン教会は、瓦礫の破片をもとの場所に組み込むという〝考古学的再建〞が行われ、完成には11年の歳月を費やした。それは「世界最大のジグソーパズル」と呼ばれるほどの大復旧作業だったという。今日では、その優雅な白亜の姿が、訪れる人々を迎えている。 早朝、旧市街を抜けて、エルベ川に架かるアウグストゥス橋に立った。それまで漆黒の闇夜に包まれていた旧市街が、ゆっくりと朝陽に染まり輝き始める。その美しさは、ゲーテが訪れていた時代とそう大差はないだろう。 ゲーテは言った。「この美しい場所には、あらゆる種類の信じがたい宝がある」。まさに、そのとおりである。 栄光 蘇るザクセン王国のエルベ川に沿って広がるドイツきっての古都・ドレスデン。壮麗なバロック様式の歴史的建造物と、周囲の自然が織りなす美しい景観は訪れる誰をも魅了する。「エルベのフィレンツェ」との言葉を残した、ゲーテもそのひとりだ。ゲーテ街道の終着地エルベ川に沿って広がる壮麗なバロック様式の歴史的建造物と、その周囲の自然が織りなす景観は、波瀾万丈の歴史を乗り超え、建都800年を経てもなお、輝きを放っている。コク深いソースで煮込んだ名物・ザウアーブラーテン。ドレスデン風はレーズン入りで、フルーティな風味が特徴。Steigenberger Hotel de Saxeシュタイゲンベルガー・ホテル・デ・ザクセNeumarkt 9, 01067 Dresden+49 351 4386 0https://www.steigenberger.comフラウエン教会の向かいに立つ『シュタイゲンベルガー・ホテル・デ・ザクセ』は、1786年に『ホテル・デ・ザクセ』として開業し、多くのヨーロッパの富裕層を迎えてきた。館内ではガラコンサートが開かれ、フランツ・リストは頻繁に宿泊し、演奏会を開いて音楽家と交流した。ロベルト・シューマンのピアノ協奏曲短調作品54が妻のクララによって初演されたのもこのホテルだ。2006年に『シュタイゲンベルガー・ホテル』として再建されてもその系譜を受け継ぎ、現在もドイツ首相をはじめ、著名人の定宿となっている。44リスト、シューマンも所縁のホテル15ドレスデンDresden
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