畑で作られた採れたての野菜を使った一夜限りのコース料理||『レストランビオス』『ヴィラアイーダ』『オステリアエノテカダ・サスィーノ』の才能と食材が結集して生み出されたこのコースは、全部で12品が供された。メニューリストは、いわゆる食材と調理法が書かれたものではなく、記されていたのはイマジネーションを促す言葉のみ。「こころ」「個」「エキス」「誇り」「大寒の里山から」「糧」「知恵」「清流」「融合」「じょっぱり」「土」「ゆきどけ」。作り手が一皿一皿に込めた思いやストーリーを感じさせるものだった。 約20名の参加者が席に着くと、『レストランビオス』のオーナーで、ご自身も野菜作りに携わっている松木一浩さんから、今回のコラボレーションとテーマである「本物のテロワール」に関する説明がなされた。そして、抽象的なメニューリストについても松木さんからの解説があった。最初の一皿である《こころ》はキャベツの芯と心を掛詞にしたもので、ちりめんキャベツをカリカリに乾燥させ、芯を揚げた一品。キャベツを手でつまんでコリアンダーなどのハーブやニンニクを入れたディップクリームにつけながらいただく。「この一皿には、本物のテロワールを味わっていただきたいという私たちの気持ちを込めています」と話す松木さん。メニューリストの言葉を具現化した料理を目にし、味わうことで、次の一皿への期待も高まる。かけことば たとえば《智恵》と題された料理は、人参をエチュベという調理法で蒸し煮し、焦がしバターと発酵させた人参のソースを添えたものである。野菜本来の味を堪能できるエチュベや発酵という、先人たちが美味しく食べるために考えた調理法を取り入れたものだった。 また、この企画がスタートしてからメニュー作りのために試作を重ねた『ヴィラアイーダ』の小林寛司シェフが、実際に富士宮に来てから起こったエピソードも披露してくれた。 「今回のメイン料理は《融合》と名づけたネギの塩釜焼きにさせていただきました。松木さんが作ったネギ、弘前の笹森通彰シェフが作ったチーズと私どものレモンコンフィを〝融合〞させた一皿です。試作の段階では、地元のジビエである鹿肉と黒大根を使った《大寒の里山から》という料理をメインに位置づけていました。肉料理がメインになるのは面白みには欠けるかもしれませんが、ごく自然なことです。ところが、このネギを実際に富士宮に来て試作した際に、これならメインでいけるし、自分たちの思いを伝えることができると閃いたんです。当初『ビオス』の坂本啓シェフから提案してもらった素材リストにネギは入っていませんでした。その後、松木さんが送ってくれた試作用の野菜の中にネギが入っていて、坂本シェフにメニューの再検討を提案したのです。塩釜焼きという調理法を思いついたのは、せっかくのコラボレーションだったので、この日しかできないものをと考えたからです。塩釜焼きは焼くだけでも30〜40分かかりますから、今回のようなスタイルでないと仕上げられないお料理です。氷砂糖と岩塩を合わせて塩釜で焼くんですが、そのまま焼くと塩っ気が強くなるので、緩衝材として白菜でネギと塩との間に壁を作りました。これならネギの持つ本来の旨みを楽しんでいただけます。チーズとレモンのコンフィとの相性もいいと思いました」 地の野菜をメインにしたアイデアこそ、今回のコラボレーションの持つ意義がより鮮明になったことはいうまでもない。 また、コース料理にはすべて、松木さんと『ヴィラアイーダ』のマダムが選んだ日本ワインや日本酒がペアリングされていた。山梨や大阪のワイン、富士宮の美味しい水から造られた日本酒「富士錦」。そして弘前の笹森通彰シェフが岩木山の麓で育てて、自らが醸造したという貴重なワインまでもが登場した。これもまた、本物のテロワールを具現化したディナーであることを印象づけたといえるだろう。左上:全12品のコースのペアリングはすべて日本産で。右から周五郎のヴァン(山梨/赤・マディラタイプ)、フェルミエ アルバリーニョ バリッカ(新潟/白・樽熟成)、河内葡萄酒シャルドネ(大阪・羽曳野/白)、ソレイユ甲州(山梨/白・無濾過生詰)、サスィーノの自家製ネッビオーロ(青森・弘前/赤)、富士錦 純米吟醸(静岡・富士宮/日本酒)、サスィーノの自家製アップルワイン。下:生ハムやチーズは弘前の『Da Sasino』の自家製。右:左から『レストランBio-s』代表の松木氏と坂本シェフ。『Villa AiDA』の小林シェフとマダム。69富士山麓の畑で自家栽培される有機野菜は、いずれも滋味深く濃厚な味わい。まさに里山のガストロノミー。
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