SIGNATURE2017年05月号
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「鰻」と聞くと、自然と心が弾む。そして、一度食べれば元気になれる不思議な食べ物だ。日本人はつくづく鰻好きなのだと思う。注文してから目の前に登場するまでのわくわく感。蓋を取った時のあの独特の香りは、食欲を大いに刺激する。それが鰻の魔法だ。 東京・白金台のお洒落な店が並ぶ一角に、浜松の有名店『うなぎ藤田』が昨年3月に白金台店をオープンさせた。「明治25年ごろ、初代が料亭などに鰻を行商していたのが始まりです。2代目はさらに養鰻場を造り、その鰻を使って3代目が鰻屋『うなぎ藤田』をスタートしました。今では4代目が受け継いでいます」と、4代目の姉で白金台店の女将・藤田清美さんが笑顔で話してくれた。 その鰻重をいただいてまず驚くのは、お米の力強さ。鰻ばかりに気を取られがちだが、パワフルな鰻を支えるお米は大切だ。鰻は秘伝のたれをつけ、備長炭でじっくりと焼き上げる。パリッとした焼き加減なのに蒸した軟らかさでご飯によく合う。鰻とご飯のバランスがとてもよく、鰻本来の風味を存分に感じさせる。実はこの鰻、地下115メートルから汲み上げた地下水の中で1週間、えさを与えず泳がせてから出荷している。そうすることで、身が引き締まり、臭みもほとんどなくなるそうだ。美味しさの秘密は、見えないところでかける手間にあるのだ。 その鰻の肝を使ったきわめて珍しい一品が、今月の一皿「肝の天麩羅」だ。揚げたて熱々の表面は香ばしく、中身の軟らかい肝はほろ苦さが心地よい。かば焼きのようにタレをつけていないから、肝の旨みが味わえる。この店が新鮮な肝をたくさん仕入れられるのは、鰻の配送事業も行っているおかげ。通販商品には入れない、〝フレッシュなのに余り物〞の肝を利用しているのだ。天麩羅のほかにも肝を使った料理が何品かあり、鰻重を待つ間の前菜としてぴったりだ。 ところでこの店には、ぼくの好きなシャンパーニュやワインが置かれている。ワインエキスパートの資格を持つ女将さんのチョイスだ。「日本の料理ですから日本のワインもお出ししています」とのこと。グラス売りもしているので試してみるといいだろう。 白金台という場所柄、モダンな店構えだが、中身は本物。明治から続く老舗の本物の味を、ぜひ味わってほしい。鰻のキモは肝にあり住所:東京都港区白金台4-19-21 IGAXビル3F電話:03-6432-5636営業時間:11:30~14:00、17:00~21:00定休日:月曜うなぎ藤田 白金台店煮焼きした肝を天麩羅にした「肝の天麩羅」は700円。きも吸い・お新香つきの「鰻重(山)」は3,800円。「テタンジェ ブリュット レゼルヴ(フランス シャンパーニュ)」はハーフボトル5,800円、ボトル10,000円。本店のある静岡の地酒も豊富に取り揃える。価格はすべて税抜です。女将NumberPhotographs by Shigeki Kuribayashi Text by Tomoyasu ShitayaKiyomi Fujita14藤田清美119今月の一皿

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