富士山を望む丘陵地、ヴァンジ彫刻庭園美術館などを含む複合文化施設「クレマチスの丘」の一角に立つのが、『IZUMUSEUM』だ。2009年開館の写真美術館であり、『新素材研究所』が手がけた最初の建築である。もともとあった平屋の建物を、鉄骨の躯体だけ残して全面的に改修。なかば丘に埋もれたその特徴的な建ち方は、以前から古代文明に惹かれていた杉本に、古墳への連想を促した。《考えてみれば古墳とは死者の為の埋葬施設であると同時に副葬品としての宝物の保管庫でもある。現代の宝物である美術品を保管展示する美術館も古墳と同じ機能を果たしていると言うこともできる》(杉本博司『空間感』マガジンハウス刊) 古墳のイメージが実際にかたちとして現れたのが、美術館の入口付近と奥の坪庭に配された、小田原・根府川石による石組みにほかならない。訪問者はまず館内に足を踏み入れる際にその巨石の乱積みを目にし、展示室を進んだ先で再び、それがより細かく積み上げられた「石室」と出合う、そんな時間と空間の奇妙な円環構造を経験する。石はただ崩れないように積めばよいわけではない。全体を調和させながら、そこに古代を蘇らせること。もう一度杉本の言葉を引いてみよう。《私はダンプトラックに揺られて石切場と施工現場を何度も往復し、四〇トンもの石を運び込むことになった。約一ヶ月ものあいだ、現場張り付きとなった私は、来る日も来る日PHOTOも石を積んだ。小雨の降るある日、轟音とともに石組みの一部が崩れた。幸いにして負傷者はなかったものの、私はシーシュポスの神話をおもいだしていた。私は永遠に作り続けなければならない「芸術」という罰をうけているのだ》(同『空間感』) こうして現代の建築に過去の時代を響き合わせる試みは、杉本の建築に一貫し、MOA美術館に先行する。展示室は大小2つの部屋の間に苔庭の空間を配したホワイトキューブで、活動の初期から写真を中心的な創作の手段にしてきた杉本らしい、作品を際立たせるシンプルな展示空間である。この美術館を設計する際、杉本はパートナーの榊田に、まず二人で感覚を共有するため、ニューヨークの主だったギャラリーを見てきてほしいと言ったという。何げなく見える展示室も、現代の先端的な展示を見据えた設計がされている。 そうした機能的配慮と同時に、木・石・土・瓦といった古建築の素材を持ち込み、建築に時間の起伏を付与する。特に外部のポーチから内部のエントランスに連続して敷かれた瓦は、MOA美術館でも用いられた特注品で、その後の新素材研究所のスタンダードともなった。1枚は30センチ角の正方形で、中央部にわずかな膨らみがあり、敷き詰めて使うことでキルティングのような柔らかな雰囲気を醸し出す。伝統の重厚さと現代の軽快さを掛け合わせる杉本の真骨頂だ。忠之 文・長島明夫写真・ 静岡県長泉町東野クレマチスの丘347-1 TEL: 055-989-8780 www.izuphoto-museum.jp37Design Architect: Hiroshi Sugimoto+Tomoyuki Sakakida / NMRLIZU PHOTO MUSEUM
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