SIGNATURE2017年05月号
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H IRAMATSUHOTELS &RESORTS』。こ 熱海駅前から車で10分ほど。熱海城のある錦ヶ浦の急な斜面を少し上った高台に、その「場所」はある。松をはじめとする木々に囲まれたアプローチの先には、ひそやかな気配の奥にゆるぎのない風格を漂わせる数寄屋造りの建物が顔を覗かせる。 かのフランス料理の名店『ひらまつ』が、〝滞在するレストラン〞をコンセプトに2016年から展開する滞在型宿泊施設『THEこ熱海は、伊勢志摩・賢島に続く施設で、箱根・仙石原にも3つめのホテルがすでにオープンしている。 『ひらまつ』の創業者で、現・会長の平松宏之は、パリで日本人オーナーシェフとして初のミシュランの星を獲得した一流の料理人であると同時に、いち早くレストランウェディングを開拓し成功させてきた辣腕の事業家でもある。その彼が、すでに20年以上前に考えていたのがこのホテル構想だったという。 一見簡素な裏に洗練と贅を尽くした数寄屋造りは、現代の数寄屋建築の名工・木下孝一による約30年前の建物のリノベーション。斜面に立つこの数寄屋棟の下に2つのフロアを増築している。13ある部屋はすべてオーシャンビューで、増築部分の11室は海側の窓を全面開放でき、目の前には杉本博司の『海景』シリーズを彷彿させる水平線が広がる。 驚くべきことに、ホテル展開を始めるにあたり『ひらまつ』では、ホテル業経験者を新たに迎え入れることをしていない。食を柱に培ってきた「自分たちのサービス」に対する絶対的な信頼のなせるわざだ。 厨房を率いるシェフの三浦賢也は、パリの『ひらまつ』を経て、帰国後は『ブラッスリーポール・ボキューズ大丸東京』の料理長として腕を揮ってきた。「ここに来て、日々、実感しているのは、生産者との距離が近いということ。当然のことながら料理は調理だけでなく食材が生まれるところからはじまっています」。そう語り、生産者の畑にも足繁く通う三浦の料理は、正統派のフランス料理を土台にして、随所に工夫がちりばめられている。 食材の仕入れは、基本的にシェフに一任されている。たとえば、地元の一本釣りの金目鯛。あえて刺身でもグリルでもなく、塩水に浸し氷で冷やしながら熟成させ旨みを引き出す。時には、周囲に広がる竹林に分け入って、切り出した竹を器に用いたり、焼いた竹炭を粉末にしてソースの隠し味に。1日に13組、最大でも30人のためだけに、徹底的に料理に注げる時間と恵まれた環境があればこそだ。 冒頭で、あえて「場所」という語を用いたのは、ここが単なるリゾートホテルの範疇には収まりきらないがゆえ。〝ヨーロッパの旅館〞と称されるように、ホテルであり、旅館でもあり、なによりもまずレストランなのだ。 料理とワインの余韻に包まれたまま眠りにつく||。『ひらまつ』の料理に欠かせない選び抜かれたワイン、心地よい眠りと目覚め、目の前に広がる相模灘の眺望。それらすべてがそろって、熱海での至福の時間が完成する。ふる忠之 文・氷川まりこ写真・ 右:館内に2室のみ設えられた数寄屋造りの特別室のひとつ「松の間」。木組みによる梁や欄間に見られる精緻な細工は、日本が世界に誇る伝統文化が息づく。中:オーシャンビューの露天風呂。左:居室やエントランスなど館内の随所には書家・井上有一の書が掛けられている。静岡県熱海市熱海1993-237 TEL: 0557-52-3301 http://hiramatsuhotels.com/atami/43※87ページで期間限定のキャンペーンをご案内しています。併せてご覧ください。THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 熱海

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